第一八話:皆んな誰かを守りたい
ネクロマンサーが消えた瞬間、
戦場が一気にざわついた。
倒れたノアから黒い魔力がゆらりと立ち上る。
その残滓を見た魔物たちの目が変わる。
――勇者だ。
そう“感じた”魔物だけが、殺気を帯びて前へ出た。
アリアが杖を握りしめる。
「来ないで!!」
リオラがノアの前に立ち、剣を構える。
「ノアに触れるな!!」
だが魔物たちは止まらない。
本能のままに、一直線にノアへ向かってくる。
一匹が跳んだ。
リオラの剣が閃く。
金属音とともに魔物が横へ吹き飛ぶ。
「忠告する!!
ノアを襲うやつは――全員殺す!!」
アリアの杖が光を帯びる。
「ノアくんは……絶対に守る!!」
次の瞬間、
魔物たちが一斉に飛びかかってきた。
爆発するような勢いで。
リオラが踏み込み、斬撃が走る。
剣圧が空気を裂き、魔物がまとめて吹き飛ぶ。
横から回り込んだ魔物がアリアへ跳ぶ。
リオラが即座に剣を返す。
「させるか!!」
斬撃が魔物の顎を砕き、
そのまま地面へ叩きつける。
アリアは詠唱を短く切り上げ、
光の槍を連射する。
「《光槍・連》!!」
槍が弾丸のように飛び、
突っ込んでくる魔物を次々と貫く。
閃光。
爆発。
悲鳴。
リオラは前衛で斬り伏せ、
アリアは後衛から撃ち落とす。
剣と魔法が交差し、
地面が砕け、
爆風が巻き上がる。
ノアを守るためなら――
二人は迷いなく、何度でも斬り、何度でも撃つ。
アリアの光槍が爆ぜ、
リオラの斬撃が魔物を吹き飛ばす。
だが――止まらない。
魔物の数が多すぎる。
二人の呼吸は荒くなり、足取りも重くなっていく。
「くっ……!」
「アリア、下がるな!」
それでも魔物は前へ出る。
倒れたノアを見て、殺気を燃やす。
そのとき――
一匹の魔物が叫んだ。
「おまえら!!さっきの魔力を見なかったのか!!」
戦場の空気が一瞬止まる。
魔物は震える声で続けた。
「あれは……間違いなく魔王様の魔力だ!!
魔王様を……お前らは殺すのか!?」
周囲の魔物たちがざわりと揺れる。
「魔王様が現れたから……俺らは1000年前から幸せに生きてるんだぞ!!
その魔王様を……本気で殺す気か!!」
その声が、戦場に突き刺さった。
ノアを“勇者”だと思っていた魔物たちの目が揺れる。
迷いが生まれ、
次の瞬間――ノアを“魔王”だと信じる魔物が一気に増えた。
「魔王様だ……!」
「守れ!!」
「魔王様を傷つけるな!!」
気づけば、ノアの周囲に魔物たちが集まり、
盾のように囲んでいた。
アリアが息を呑む。
「みんな……!」
リオラは剣を握り直し、叫ぶ。
「よし……押し返すぞ!!」
アリアも杖を構え直す。
「ノアくんは……みんなで守る!!」
魔王派の魔物たちが前に出て、
勇者派の魔物を押し返す。
襲いかかってくる魔物が次々に口にする。
「勇者を……絶対に許さない!!」
「1000年前、俺たちの仲間を殺したのは勇者だ!!」
「今殺さなければ、いつか殺されるぞ!!」
その叫びは、怒りと憎しみで震えていた。
勇者派はノアを“勇者”と見て、
過去の怨念をぶつけるように突撃してくる。
魔王派が叫ぶ。
「魔王様を傷つける気か!!」
「守れ!!魔王様を守れ!!」
二つの派閥がぶつかり合い、
戦場はさらに混乱した。
アリアとリオラはその中心で戦い続ける。
光槍が走り、
斬撃が閃き、
魔物たちの咆哮が重なる。
だが二人の体力は限界に近い。
「はぁ……っ、アリア!」
「まだ……いける……!」
それでも勇者派は怨念を燃やし、
魔王派は必死に守り、
戦場は崩壊寸前だった。
その瞬間――
空気が“裂けた”。
風が止まり、
戦場の音が一瞬だけ消える。
フードを深く被った人物が目の前に現れる。
その存在感だけで、
魔物たちの殺気が一気に萎む。
アリアが息を呑む。
「……誰……?」
人物は答えない。
ただノアのそばまで歩き、倒れた少年を一瞥する。
そして――
アリアとリオラの肩にそっと触れた。
次の瞬間、視界が“跳んだ”。
魔物たちの咆哮が遠ざかり、
爆発音が薄れ、
世界が一瞬で別の色に変わる。
気づけば、三人はまったく違う場所に立っていた。
静かな森の奥。
風の音だけが聞こえる。
アリアが膝をつき、息を整える。
「……助けてくれたの……?」
リオラは剣を握りしめたまま、
フードの人物を睨む。
「お前……何者だ……?」
人物はゆっくりと振り返り、
フードの奥から低い声を漏らした。
「戦場に残れば、三人とも死ぬ。
だから連れてきただけだ。」
アリアが震える声で言う。
「ノアくんを……守ってくれたの?」
人物は答えない。
ただノアの方へ視線を向ける。
「……目覚めるまで、時間が必要だ。」
風が吹き、フードがなびく。
見覚えのある顔がフードの隙間から見えた。
瞬間、リオラが叫ぶ。
「アリア!!離れろ!!"あいつ"だ!!!!」




