第一六話:魔王の力
ウォーロードが踏み込んだ瞬間、
地面が沈み、空気が震えた。
ノアは反応できなかった。
「遅ぇ!」
ウォーロードの拳がノアの腹にめり込む。
ドガッ!!
視界が白く弾け、
ノアの身体が宙を舞い、
石畳に叩きつけられる。
肺が潰れたように呼吸ができない。
「……っ……は……!」
アリアさんが叫ぶ。
「ノアくん!!」
ウォーロードは歩く。
一歩ごとに地面が揺れる。
「魔力の質は高ぇ。
だが――戦い慣れてねぇ」
ノアは立ち上がろうとするが、
膝が震えて言うことを聞かない。
ウォーロードの影が覆いかぶさる。
「次、いくぞ」
拳が振り下ろされる。
ノアは咄嗟に魔力を前へ押し出した。
だが――遅い。
ウォーロードの拳が魔力を突き破り、
ノアの肩を砕くように叩きつけた。
バキッ!!
「っ……ああああッ!!」
肩が焼けるように痛む。
腕が動かない。
ウォーロードは容赦しない。
「魔力を使う前に、殴られちまうんじゃ意味ねぇんだよ!」
巨体が跳ね上がり、
ノアの頭上から蹴りが落ちる。
ノアは必死に魔力を展開するが――
ウォーロードの脚が魔力の膜を破壊し、
ノアの背中を踏み抜いた。
ドガァッ!!
石畳が砕け、
ノアの身体が地面にめり込む。
呼吸が止まる。
視界が揺れる。
(……痛い……
体が……動かない……
魔力が……うまく……)
ウォーロードは止まらない。
ノアの髪を掴み、
無理やり顔を上げさせる。
「魔力の扱いを少し教わった?
そんなもんで俺に勝てると思ったのか?」
ノアは答えられない。
血が口からこぼれる。
ウォーロードの拳がノアの頬を砕く。
ドッ!!
頭が揺れ、
世界がぐにゃりと歪む。
アリアさんが叫ぶ。
「ノアくん!!やめて!!」
ウォーロードは振り返らない。
「戦いだ。邪魔すんな」
ノアは立ち上がろうとする。
だが、足が折れている。
ウォーロードがゆっくり近づく。
「終わりだ」
拳が振り上げられる。
ノアの心臓が跳ねた。
(……死ぬ……
このままじゃ……)
その瞬間――
胸の奥で“何か”が弾けた。
黒い魔力が、
ノアの体内で暴れ出す。
(……嫌だ……
まだ……終われない……!)
ノアの視界が揺れ、
世界が黒く染まる。
ウォーロードの拳が迫る。
その瞬間ーー
黒い魔力がノアの周囲に噴き上がり、
地面を割り、空気を裂き、
ウォーロードの拳を“押し返した”。
ウォーロードの目が見開かれる。
「……ッ!?
この魔力……さっきと……違う……!」
ノアは立ち上がる。
だが、その目は“ノアのものではなかった”。
黒い光が瞳を満たし、
呼吸が荒く、
魔力が制御不能に溢れ出す。
アリアさんが震える声で言う。
「ノアくん……?
それ……魔力が……暴走してる……!」
ノアは聞いていない。
ただ、ウォーロードを見ている。
「……邪魔だ……」
その声は低く、
冷たく、
人間のものではなかった。
ノアが一歩踏み出す。
その瞬間、
ウォーロードの巨体が“後ろへ吹き飛んだ”。
何もしていない。
ただ歩いただけ。
だが、ノアの魔力が空気を押し、
ウォーロードを弾き飛ばした。
「ぐっ……!
なんだこの圧……!
さっきまでのガキじゃねぇ……!」
ノアはゆっくり手を上げる。
魔力が形を持たずに溢れ、
黒い霧となって空気を満たす。
ウォーロードの身体が沈む。
地面が沈む。
空気が悲鳴を上げる。
「……潰す……」
ノアの声は、
魔王そのものだった。




