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1000年ぶりの勇者と魔王 〜魔法が使えなかった少年は"世界初のスキル"で覚醒する〜  作者: 土田土


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第一二話:アリアの仕事

翌日。

ノアはアリアさんと森の道を歩いていた。

空気は気持ちよくて、昨日のドラゴンの緊張感が嘘みたいだ。


「アリアさんって、なんでこんな所にいるんですか?」


アリアさんは前を見たまま、軽い声で答える。


「んー、平たく言えば……争いをなくしたいってところかな。

そのために研究してるの」


「へぇ……なんか、かっこいいですね」


「そう? 私は好きでやってるだけですよ」


少し間が空いて、ノアは気になっていたことを聞く。


「アリアさん、好きな食べ物って何ですか?」


「パンですね。焼きたてのやつが好きです」


「意外と普通……」


「ノアくんは?」


「僕は……甘いものですかね。ケーキとか」


「じゃあ今度焼きます?」


「えっ、焼けるんですか?」


「よく焼いてますよ。研究の合間に」


そんな他愛ない会話をしながら歩いていると、

遠くに何かが見えてきた。


「アリアさん、あれ……?」


「ゴブリンの集落です。行きましょう」


ノアはアリアさんの手元を見る。

武器も何も持っていない。

あるのはノートだけ。


(……ほんとに大丈夫?)


そう思った瞬間、

ゴブリンがこちらに気づいて近づいてきた。


「やば……!」


ノアが身構えたその時――


ゴブリンが口を開く。


「アリアさーん!」


ノアは固まる。


アリアさんも自然に返す。


「こんにちは。今日も少し記録させてくださいね」


ノアは目を丸くした。


「え……魔物って喋るの……?」


アリアさんは軽くうなずく。


「喋りますよ。喋る魔物は初めて見ますか?」


ノアはただ、ぽかんとゴブリンたちを見るしかなかった。


ゴブリンとの会話がひと段落すると、

さっきのゴブリンが気さくに言った。


「せっかくだし、村を案内するよ!」


ノアは驚きつつもついていくことにした。


村に入ると、

小さな家が並び、焚き火の匂いが漂っていた。

ゴブリンたちがこちらに気づき、わらわらと集まってくる。


「お客さんだ!」「アリアさんだー!」


みんな嬉しそうだ。


アリアさんは自然に笑顔で返す。


「こんにちは。この人はノアくんはです、私のお仕事を手伝ってくれてます」


ノアは少し緊張しながら頭を下げる。


「よろしくお願いします」


するとゴブリンたちは一斉に明るく返した。


「よろしくな!」「よく来たな!」


ノアも明るく笑顔で返す。


---


村の中央では、

ゴブリンたちが簡単な料理を振る舞ってくれた。


焼いたキノコ、干し肉、甘い木の実。

どれも素朴だけど、心がこもっている。


「これ、うちの畑で採れたやつだぞ!」

「こっちは昨日の狩りの成果だ!」


ノアは思わず感動する。


「すごい……ありがとうございます」


アリアさんもゴブリンたちと談笑している。

いつも淡々としているのに、

ここでは自然に笑顔が出ていた。


「リリアさん、最近どう?」

「まあまあですね。元気ですよ」


ゴブリンたちと楽しそうに話す。


(……みんな仲いいんだな)


ノアはその光景を見て、胸が温かくなる。


---


ふと、さっきのゴブリンが話し始めた。


「でもな……村の景気は悪くてさ。

ゴブリンキングが居なくなってから、統率が取れないんだよ。

働くやつが減って、備蓄ばっかり食いつぶしてる」


アリアさんは静かに聞く。


「このままでは村が崩壊してしまいますね」


「だから、やる気のあるやつらで狩りに出てるんだが……

もう冬が近い。このままじゃ越冬できない」


「食料の確保が最優先になりそうですね」


ノアはその会話を聞きながら、

胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


(……魔物にも、こんなふうに“暮らし”があるんだ)


(悩んで、働いて、冬を越す準備をして……

人と変わらないじゃないか)


そして――

ノアの心に重い事実が落ちる。


(ゴブリンキング……

多分、俺が……殺してしまったんだ)


知らなかったとはいえ、

自分がこの村を苦しめてしまったのかもしれない。


(……申し訳ない……)


ゴブリンたちは笑っている。

アリアさんも穏やかに話している。


ノアはその横で、

気づけば胸の痛みと、助けになりたいという思いを抱えていた。


夕方になるまで、ノアはゴブリンたちとたくさん遊んだ。

鬼ごっこみたいな遊びをしたり、畑を見せてもらったり、

焚き火の周りで木の実を食べたり――

気づけば時間があっという間に過ぎていた。


村のみんなは本当に楽しそうで、

アリアさんも自然に笑っていた。


(……アリアさん、普段こんなことしてたんだ)


魔物と関係を築いて、

魔物の悩みを聞いて、

できる範囲で助けて――


それがアリアさんの日常だった。


帰り道。

夕焼けの森を歩きながら、ノアはふと口を開いた。


「アリアさん……俺、魔物のこと勘違いしてました。

人を襲うだけの化け物だって……ずっとそう思ってた」


アリアさんは歩く速度を少し緩めて、

横目でノアを見る。


「私も最初はそう思ってたんですよ」


「え……アリアさんも?」


「ええ。でもね、私の師匠が教えてくれたんです。

魔物も人間も同じだって」


ノアはその言葉を胸の奥でゆっくり噛みしめる。


今日見たゴブリンたちの笑顔。

仲間を思う気持ち。

冬を越すために必死に働く姿。

魔物と楽しそうに話すアリアさん。


ノアは夕焼けの空を見上げながら、

静かにうなずいた。


「……そうですね。

今日、やっと分かった気がします」


アリアさんは少しだけ微笑んだ。


「それなら、来た意味がありましたね」


ノアは胸の奥が温かくなるのを感じながら、

ゆっくり家へと戻っていった。

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