第九十一話 「九条ハヤトの提案」
《YOKOZUNA会議》
金色のホログラムが、
コンテナハウス内部を埋め尽くしていた。
香港。
上海。
神戸。
澳門。
台湾。
東アジア市場そのものが、
ここへ集まっている。
レンは完全に萎縮していた。
「……胃が痛い」
「分かる」
藍華も珍しく真顔。
その時。
林宗龍の声が響く。
『MAY-LIN現象』
『東アジア感情市場へ重大影響を確認』
市場データが流れる。
* 感情株変動
* AI制御率低下
* 若年層市場流動変化
* Emotion Crash収束反応
完全に、
一人の高校生の影響規模じゃない。
その時だった。
「なら」
九条ハヤトが口を開いた。
空気が変わる。
レンは気づく。
この男。
普段ふざけてるのに。
今だけは、
本当に“ヨコヅナ側”の顔をしていた。
ハヤトは静かに言う。
「林美玲は」
「感情市場に必要な人間だ」
ヨコヅナ会議が静まる。
レンが驚く。
「……ハヤト」
《EYES》が解析する。
《九条ハヤト》
元ヨコヅナ階級
⸻
東アジアヨコヅナ会議評議員権限保持
⸻
市場発言影響力:特級
「評議員ぉ!?」
レンの絶叫が響く。
コメント欄爆発。
《強キャラすぎる》
《逃げるフィクサーとは》
《弁当買ってた男だぞ》
だが。
今のハヤトは笑っていなかった。
「市場は」
「感情を商品へ変えた」
「だが」
金色のホログラムを見る。
「人間の感情そのものを」
「完全には支配できない」
静かな声。
なのに。
ヨコヅナ会議全体が聞いている。
「MAY-LINは」
「その証明だ」
林宗龍が静かに目を細める。
ハヤトは続けた。
「俺は中立だ」
その瞬間。
市場モニターが揺れる。
ヨコヅナ層の空気が変わる。
中立。
それは。
市場戦争において、
最重要の言葉だった。
「だが」
ハヤトは後ろを見る。
レン。
美玲。
藍華。
黒犬。
この小さなクルーを。
「彼女らに居場所を提供する」
沈黙。
レンは少し驚く。
この男。
本気で守るつもりなんだ。
そして。
九条ハヤトは最後に言った。
「今後」
「ヨコヅナは中立であるべきだ」
空気が止まる。
巨大市場。
国家級資本。
その中心へ。
一人の元ヨコヅナが、
真正面から提案を叩きつけた。
レンは思う。
この男。
逃げるし。
弁当買ってくるし。
雑だし。
でも。
めちゃくちゃカッコいい。




