第八十二話 「監視都市」
池袋上空。
LUXの巨大ホログラムが、
朝焼け空へ浮かんでいた。
青白い企業UI。
冷たい管理光。
その中心で。
白凛雪が、
無機質な瞳で《MAY-LIN》を見ている。
『観測対象M-01』
『監査継続』
レンは顔をしかめた。
「だからその呼び方やめろよ……」
だが。
白凛雪は反応しない。
まるで。
感情そのものを切り離したみたいだった。
《EYES》が分析を出す。
『対象感情波:極端低値』
『高次感情制御処理痕確認』
「……なんだこれ」
レンは小さく呟く。
「感情が薄すぎる」
その時。
美玲が静かに言った。
「白凛雪は」
「LUX本部直属プロキシ」
空気が少し重くなる。
「感情を削ってるタイプ」
レンは眉をひそめた。
「削る?」
美玲は頷く。
「Emotion Crash防止のために」
「感情抑制処理をしてる」
レンは嫌な顔をした。
「それ人間なのか……?」
白凛雪が初めて少しだけ反応した。
『感情はノイズです』
『社会運営に不要な揺らぎは制御されるべき』
藍華が小さく舌打ちする。
「うわぁ、完全コーポレート思想」
その時。
池袋の大型スクリーンへ、
新しいニュースが流れ始めた。
⸻
《速報》
MAY-LIN現象
各国政府共同監視開始
感情市場変動率過去最大
東アジアAI市場急変動
⸻
「うわぁぁ……」
レンは頭を抱えた。
「本当に国家案件になってる……」
《EYES》がさらに通知を出す。
『MAY-LIN関連市場影響』
* 配信株急騰
* 感情広告市場変動
* 感情安定薬売上増加
* LUX株価下落
「株まで動いてんの!?」
藍華が苦笑する。
「今のMAY-LIN」
「もう一人の配信者じゃないから」
その時。
白凛雪が静かに告げる。
『現在』
『東アジアヨコヅナ層があなたへ注目しています』
空気が変わった。
レンが反応する。
「ヨコヅナ……?」
《EYES》が表示。
《YOKOZUNA》
東アジア超巨大市場支配層
⸻
国家を超える資本階級
⸻
感情市場・AI市場・配信市場統制者
⸻
レンの顔が引きつる。
「ラスボス層じゃねぇか……」
美玲も少しだけ真顔になった。
その反応を見て、
レンは気づく。
この名前。
美玲でも無視できない。
白凛雪は続ける。
『MAY-LIN』
『あなたは既に』
『市場現象です』
朝焼けの池袋。
ネオン都市。
その中心で。
世界最大級配信者は、
ついに“人間の枠”を超え始めていた。




