第八十話 「LUX監査官」
『M-01』
その呼び方だけで、
空気が凍った。
池袋上空。
巨大LUXホログラム。
青白い企業UI。
感情のない無機質な光。
さっきまで朝焼けだった街が、
一瞬で冷たくなる。
レンは美玲を見る。
彼女の表情が、
少しだけ固まっていた。
《MAY-LIN》ではない。
“被験体M-01”。
過去の名前。
《EYES》が警告を出す。
『LUX高位アクセス権確認』
『感情管理局直属権限』
「直属……?」
藍華が舌打ちする。
「LUX本隊だ」
《NOISE》も珍しく険しい顔。
「池袋事件で出てきた」
その時。
ホログラムの女が静かに名乗る。
『LUX東アジア感情監査局』
『監査官
白 凛雪』
白銀の瞳。
冷たい声。
まるでAIみたいだった。
だが。
彼女は美玲を真っ直ぐ見ている。
『M-01』
『あなたの感情同期値が危険域へ到達しました』
レンが顔をしかめる。
「危険域?」
《EYES》が反応。
『MAY-LIN感情接続数解析』
『現在:人類上位危険個体認定レベル』
「危険個体ぉ!?」
コメント欄爆発。
《国家認定!?》
《MAY-LINやば》
《世界規模兵器扱い》
「兵器じゃねぇから!!」
だが。
白凛雪は感情なく続ける。
『登録者数7億8000万人』
『同時接続15億人超』
『都市感情層への直接介入確認』
青白いUIが展開される。
《危険度評価》
『SSS-Class Emotion Connector』
空気が止まる。
レンは思わず呟いた。
「……なんだよそのラスボスみたいな分類」
藍華が苦笑する。
「LUX側の危険人物指定」
《NOISE》が小さく言う。
「国家転覆可能レベル」
「怖ぇよ!!」
だが。
白凛雪の視線は、
ずっと美玲へ向いていた。
『M-01』
『あなたは管理外へ到達し始めている』
美玲は静かに言う。
「……だから何?」
白凛雪は一切表情を変えない。
『LUX本部は』
『あなたを“人類感情災害指定候補”として観測開始しました』
池袋の空気が凍りつく。
コメント欄すら一瞬止まった。
レンは息を呑む。
人類感情災害。
それは。
もう一人の配信者への呼称じゃない。
国家級脅威だ。
その時。
美玲は静かに笑った。
「ふーん」
「軽いな!?」
だが。
彼女の赤い瞳は、
真っ直ぐLUXを見ていた。
「じゃあ」
《MAY-LIN LIVE》が起動する。
赤いUI。
ネオンの龍。
「見せてあげる」
朝焼けの池袋。
その中心で。
世界最大級配信者が、
LUXへ笑い返した。
「感情は」
「管理するためだけにあるんじゃないって」




