第五十話 「NEO横浜電脳租界」
空中要塞が燃えていた。
NEO横浜の夜空。
ネオン。
炎。
雨。
崩れ落ちるLUX大型制圧機が、
まるで巨大な流星みたいに都市を横切っていく。
《うおおおおお!!》
《MAY-LIN!!》
《伝説だ!!》
歓声が止まらない。
コメント欄も、
完全に祭り状態だった。
《同接2億7000万突破》
《世界トレンド1位》
《#赤龍直播》
レンは広場中央で、
呆然と空を見上げていた。
「……終わった?」
《EYES》が静かに返す。
『大型制圧機:戦闘不能』
「マジで倒したのかよ……」
その時。
上空から、
一つの影が落ちてくる。
「……あ」
美玲。
爆炎の中から、
ゆっくり落下していた。
「おい!!」
レンは反射的に走る。
ネオン雨。
歓声。
世界中の視線。
そんなもの全部忘れて、
ただ前へ走った。
そして。
落ちてきた美玲を、
ギリギリで抱き止める。
ドサッ――
勢いで二人とも倒れ込む。
観客どよめき。
《おおおお!?》
《抱き止めた!!》
《レン誰ぃぃぃ!!》
「その呼び方やめろ!!」
レンは思わず叫ぶ。
だが。
腕の中の美玲は、
小さく笑っていた。
「……ちゃんと来たね」
「来るに決まってんだろ!」
「へへ」
珍しく、
年相応の笑い方だった。
レンは少し息を呑む。
今まで。
《MAY-LIN》としての顔ばかり見ていた。
でも今の彼女は、
ただの少女みたいだった。
その時。
巨大スクリーンへ、
《YUNA》の映像が映る。
ノイズ混じり。
だが。
彼女は静かにこちらを見ていた。
『……M-01』
美玲の目が細くなる。
『あなたは危険です』
『感情市場を壊す』
沈黙。
だが。
美玲は笑った。
「だったら壊せばいい」
観客が静まる。
ネオン雨だけが響く。
「感情を勝手に売って」
「人を数字にして」
「好きって気持ちまで支配する」
赤い瞳が、
真っ直ぐ空を見上げる。
「そんな市場なら」
《MAY-LIN LIVE》
世界中へ配信される。
2億7000万人が、
その言葉を聞いている。
「私は全部ぶっ壊す」
沈黙。
そして。
歓声が爆発した。
《うおおおおおお!!》
《MAY-LIN!!》
《女王!!》
《NEO横浜!!》
レンは隣の美玲を見る。
ネオンに照らされた横顔。
雨で濡れた髪。
赤い瞳。
世界最大の配信者。
でも。
今は、
ただ一人の少女に見えた。
「……なぁ」
「ん?」
「お前これからどうすんの?」
美玲は少しだけ考えて。
そして。
いつもの不敵な笑顔を浮かべた。
「まず?」
配信ドローンが、
二人を映す。
コメント欄爆速。
《付き合え!!》
《結婚しろ!!》
《レン誰ぃぃぃ!!》
「だからその呼び方やめろ!!」
観客爆笑。
美玲も笑う。
そして。
彼女はレンの耳元で小さく言った。
「次は池袋」
ネオン都市の風が吹く。
遠く。
新しい配信戦争の気配。
炎上。
熱狂。
感情。
まだこの世界は終わらない。
だが。
レンは少しだけ笑った。
「……マジかよ」
2092年。
感情が売られる時代。
NEO横浜電脳租界。
そこから。
彼らの物語は、
まだ始まったばかりだった。
⸻
第一部・横浜編 完結




