第四十七話 「静の武術」
「……太極拳!?」
藍華の声に、
レンも目を見開いた。
今までの美玲とは違う。
八極拳みたいな爆発力でもない。
八卦掌みたいな舞う動きでもない。
静かだった。
ネオン雨の中央立体広場。
騒音。
歓声。
レーザー。
その中心で。
美玲だけが、
妙に静かだった。
スタビライザーをゆっくり構える。
呼吸。
重心。
水面みたいな動き。
《EYES》が解析する。
『太極拳系動作確認』
「マジで何でもできるなアイツ……」
レンが呆然と呟く。
だが。
美玲は小さく息を吐いただけだった。
その瞬間。
《REI》《MEI》のAR幻影群が一斉展開。
偽の映像が、
都市空間を埋め尽くす。
《MAY-LIN》の偽物。
偽ドローン。
偽レーザー。
視界そのものが混乱していく。
観客席もざわめく。
《何が本物!?》
《見えねぇ!!》
だが。
美玲は動じない。
ゆっくり。
一歩。
滑る。
太極拳。
円運動。
流し。
《EYES》が反応。
『感情ノイズ回避行動』
「……感情を読んでる?」
レンが息を呑む。
そうだ。
幻覚映像には感情が無い。
本物だけが、
“人間の感情”を持っている。
美玲は、
それを見抜いている。
「そこ」
次の瞬間。
スタビライザーが流れるように動いた。
ドンッ!!
AR投影装置破壊。
空中ホログラムが崩壊する。
《うおおおお!?》
《見抜いた!!》
《ヤバすぎ!!》
《REI》《MEI》の表情が初めて崩れる。
『なっ……!?』
だが。
美玲は止まらない。
太極拳独特の滑らかな動き。
流し。
崩し。
回転。
まるで雨そのものみたいだった。
レンは見惚れる。
「……綺麗だ」
《EYES》が小さく反応。
『対象:朝霧レン
感情状態:高揚』
「うるせぇ!!」
藍華がニヤニヤしていた。
「青春だねぇ」
「黙れ!!」
その時。
《YUNA》が静かに言った。
『……やはり危険』
銀色の瞳が、
冷たく美玲を見る。
『M-01は感情市場を壊す』
空気が冷える。
その瞬間。
上空。
巨大な影が広場を覆った。
レンの顔が引きつる。
「……おい」
LUX大型制圧機。
今までのドローンとは、
サイズが違う。
完全に軍用。
「いやデカすぎるだろ!!」
観客席から悲鳴。
だが。
美玲は空を見上げ、
不敵に笑った。
「いいね」
赤い瞳が輝く。
「配信映えしそう」




