第四十四話 「感情解放宣言」
『LUX同期波を相殺』
《EYES》の表示を見て、
レンは息を呑んだ。
「……押し返してる」
都市規模感情同期。
本来なら、
個人で対抗できるものじゃない。
だが。
中央立体広場の空気は、
確実に変わっていた。
《MAY-LIN!!》
《負けんな!!》
《感情は俺らのもんだ!!》
コメント欄は、
もはや熱狂というより“意思”だった。
配信ドローン群が、
ネオンの海を旋回する。
雨粒。
歓声。
心拍。
全部が一つのライブになっていた。
その時。
《YUNA》が初めて感情を露わにした。
『……ありえない』
銀髪が揺れる。
完璧だった笑顔に、
小さなヒビが入る。
『群衆制御を拒否……?』
レンは気づく。
《CRADLE》側は、
視聴者を“数字”で見ている。
でも。
美玲は違う。
《MAY-LIN》は、
ちゃんと“人間”として見ている。
だから。
熱狂が、
依存じゃなく応援へ変わっている。
その瞬間。
《黒犬》がゆっくり前へ出た。
観客がざわめく。
《黒犬!?》
《どっちだ!?》
彼は静かに、
《YUNA》を見る。
『……俺は』
低い声。
『道具じゃない』
空気が止まる。
《YUNA》の表情が変わった。
『黒犬』
『命令です』
『戦闘を継続してください』
だが。
《黒犬》は警棒を見下ろしたあと、
ゆっくり地面へ落とした。
ガラン――
金属音。
観客どよめき。
《捨てた!?》
《マジか!!》
レンは思わず叫ぶ。
「お前……!」
《黒犬》は少しだけ笑った。
不器用な笑顔。
『……久しぶりだ』
『楽しいって感情』
《EYES》が大きく反応。
『感情回復率:48%』
その時。
LUX側ドローン群が、
一斉に照準を変えた。
『裏切り個体確認』
「ッ!」
藍華が叫ぶ。
「来る!!」
赤いレーザーサイトが、
《黒犬》へ集中する。
だが次の瞬間。
美玲が前へ出た。
スタビライザーを回転。
八卦掌歩法。
配信ドローン群展開。
「レン!!」
「分かってる!!」
レンは《EYES》を強制接続。
ドローン群へ演算指示。
「カメラ散開!」
「視界ジャック!」
ネオン広告が乱れる。
空中映像が切り替わる。
《MAY-LIN LIVE》
都市全域のスクリーンへ、
美玲たちの姿が映し出される。
そして。
美玲は《黒犬》の前へ立った。
「アンタ」
赤い瞳が真っ直ぐ向く。
「今からどうしたい?」
沈黙。
《黒犬》は、
少しだけ空を見上げた。
ネオン。
雨。
歓声。
感情。
そして。
『……生きてみたい』
その瞬間。
観客の歓声が、
夜空を揺らした。




