第四十一話 「感情が戻る瞬間」
『……楽しい』
その言葉で。
中央立体広場の空気が変わった。
観客も。
コメント欄も。
レンも。
全員が一瞬止まる。
《黒犬が笑った?》
《感情戻ってる!?》
《MAY-LIN何したんだ!?》
レンは《EYES》を見る。
『対象:黒犬
感情反応増加』
間違いない。
《黒犬》は今、
感情を取り戻し始めている。
その時。
《YUNA》の顔色が変わった。
『黒犬』
『感情抑制を維持してください』
命令。
だが。
《黒犬》は動かない。
ネオン雨の中、
ただ美玲を見ていた。
「……アンタ」
美玲はロッドを肩へ担ぐ。
「昔、武術好きだったでしょ」
《黒犬》の指が僅かに動く。
反応。
レンは息を呑む。
効いてる。
「型が綺麗すぎる」
美玲は続ける。
「軍隊式だけじゃない」
「……」
「誰かに教わった動きだ」
沈黙。
そして。
《黒犬》は初めて、
少しだけ人間らしい顔をした。
『……祖父が』
観客が静まり返る。
『昔、中国武術を』
《YUNA》が鋭く割り込む。
『黒犬!!』
その瞬間。
《黒犬》の首筋へ、
赤い制御光が走る。
レンの顔が変わる。
「ヤバい!」
《EYES》が警告。
『感情抑制装置強制起動』
《黒犬》が苦しそうに頭を押さえる。
『……ッ』
観客ざわめき。
《何あれ!?》
《制御されてる!?》
美玲の表情が消えた。
「……最低」
その声は、
今までで一番冷たかった。
次の瞬間。
《黒犬》が暴走する。
高速突撃。
だが動きが荒い。
感情制御が崩れている。
「レン!」
「え!?」
「もう一本!!」
「はいよ!!」
レンは近くの撮影機材ケースを蹴り開ける。
中から飛び出したのは、
配信用スタビライザー。
金属製。
湾曲型。
「これでいいか!?」
「十分!」
美玲が空中キャッチ。
その瞬間。
彼女の動きが変わった。
低姿勢。
独特の揺れ。
不規則歩法。
藍華が目を見開く。
「……酔拳!?」
美玲はネオン雨の中、
笑いながら揺れる。
千鳥足みたいな動き。
だが。
次の瞬間。
爆発的加速。
「酔仙乱舞」
ガガガガガッ!!
予測不能連撃。
《黒犬》の防御が崩れる。
観客絶叫。
《うおおおお!?》
《動き読めねぇ!!》
《香港映画すぎる!!》
レンは完全に圧倒されていた。
「なんでもアリかよ美玲……」
美玲は笑う。
「配信者だからね」
その赤い瞳は、
ネオンみたいに輝いていた。
「飽きさせないの、大事でしょ?」




