第三話 「違法感情AIの共犯者」
「……離せ」
レンが低く言う。
だが美玲は胸ぐらを掴んだまま離さなかった。
赤い瞳が揺れている。
配信中の《MAY-LIN》じゃない。
もっと生々しい、
追い詰められた人間の目だった。
「アンタ、どこまで見えた?」
「……感情波形くらいだよ」
「嘘」
「本当だって」
レンは顔をしかめた。
「《EYES》は深層感情までしか読めない。記憶とかまでは無理」
美玲は数秒黙る。
やがて、
ゆっくり手を離した。
「……最悪」
「それ俺の台詞」
レンは制服を直す。
部屋を見回した。
狭い。
だが機材だけは異常だった。
配信モニター。
違法中継機。
感情波形分析ツール。
暗号通信サーバー。
完全にブラックマーケット仕様。
「お前、本当にただの配信者か?」
「ただの配信者がこんな街で三千万登録いくと思う?」
「思わん」
美玲は椅子に座り、
エナジードリンク缶を放った。
レンが反射的に受け取る。
「……毒入ってないよな」
「入れるならもっと高いやつ使う」
「怖ぇな」
プシュ、と缶を開ける音。
外ではまだ雨が降っている。
ネオン光が窓に滲み、
部屋の中を青白く染めていた。
「で」
美玲が言う。
「アンタ、名前は?」
「朝霧レン」
「学生?」
「港湾第七学園」
「うわ、エリート気取り校」
「偏差値42だぞ」
「終わってる」
レンは少し笑った。
その瞬間。
美玲が一瞬だけ目を丸くする。
「……何」
「いや」
彼女は視線を逸らした。
「普通に笑うんだなって」
「は?」
「《EYES》持ってる人間って、もっと気持ち悪い奴ばっかだから」
「偏見エグいな」
「事実」
レンは缶を傾けながら、
改めて彼女を見る。
配信の中では、
いつも完璧だった。
強気で、
自由で、
誰よりこの街を楽しんでいるように見えた。
でも実際は違う。
《EYES》越しに見える感情は、
ずっと不安定だった。
『対象:林美玲
疲労蓄積
睡眠不足
警戒状態』
そして。
『救援欲求:高』
レンは眉をひそめる。
その時だった。
部屋の照明が突然赤く染まった。
『警告』
『区域内EVA監査レベル上昇』
『違法感情通信を検知』
「……ッ」
美玲の顔色が変わる。
「早すぎ……!」
「何が!?」
「ここバレた」
直後。
窓ガラスの向こうに、
赤いレーザーサイトが走った。
「伏せろ!」
美玲がレンを押し倒す。
次の瞬間。
ガァンッ!!
窓ガラスが吹き飛んだ。
「うおおっ!?」
破片が部屋中に散る。
黒い戦術ドローンが三機、
室内へ侵入してきた。
『対象確認』
『違法AI保持者および協力者を拘束します』
「協力者!?」
「アンタもう完全に共犯だから!」
「聞いてねえぞ!!」
ドローンの銃口が展開される。
レンは青ざめた。
「待っ――」
だがその瞬間。
美玲が机を蹴り飛ばした。
ホログラム画面が一斉に乱れる。
『ノイズ通信開始』
『映像フィード汚染』
「は?」
「配信者ナメんな」
美玲はニヤッと笑った。
その笑顔だけは、
さっきまでと違って本物だった。
「レン!」
「な、なんだよ!」
「死にたくなかったら走れ!!」
そして二人は、
ネオン雨の《NEO横浜電脳租界》へ飛び出した。




