第二十九話 「赤く染まるNEO横浜」
赤。
赤。
赤。
NEO横浜電脳租界の夜景が、
一瞬で血みたいな色へ変わった。
「……は?」
レンが呆然と呟く。
九龍街だけじゃない。
湾岸高速。
高層ビル群。
駅前モニター。
空中広告。
都市全域。
全部が赤く点滅している。
『EVA緊急感情同期モード起動』
機械音声が空へ響く。
街中の人々がざわめいた。
「なんだこれ……」
「LUX……!」
美玲の顔が険しくなる。
周天宇の声が、
都市スピーカー全域へ流れた。
『皆さん』
『今夜は歴史的瞬間です』
白スーツの男が、
巨大ホログラムとして夜空へ映し出される。
『感情市場は次の段階へ進化します』
その瞬間。
都市全域のAR広告が切り替わった。
《MAY-LIN 感情同期LIVE》
《共感接続を開始しますか?》
レンの背筋が凍る。
「おい待て」
「マズい……!」
美玲が叫ぶ。
「街中へ同期を流す気だ!」
次の瞬間。
街の人々の端末が一斉発光。
《YES / ACCEPT》
承認画面。
しかも。
大量の人間が、
無意識にタップしていた。
「なんで押すんだよ!?」
「配信熱狂状態だから!」
レンの《EYES》が警告を鳴らす。
『都市感情接続率上昇』
『11%』
『18%』
『27%』
「増えるな増えるな!!」
だが。
熱狂は止まらない。
7000万人規模の感情。
それが都市全体へ拡散されていく。
レンは寒気を覚えた。
これ、
本当に危険だ。
その時。
美玲がモニターを見る。
コメント欄も混乱していた。
《頭熱い》
《なんか変》
《泣きそう》
《メイリン好き》
レンは気づく。
感情同期が、
視聴者側へ侵食を始めている。
周天宇は笑う。
『素晴らしい』
『都市規模感情同期』
『これこそ次世代市場です』
「ふざけんな……!」
レンは叫ぶ。
「人間の感情を勝手に繋ぐな!」
だが。
周天宇はむしろ嬉しそうだった。
『だから価値があるのです』
『孤独は消える』
『全員が同じ熱狂を共有できる』
「それは支配だろ!」
その瞬間。
《EYES》が異常反応を示した。
『対象:林美玲
感情共鳴率急上昇』
レンが振り向く。
「美玲!?」
彼女の赤い瞳が、
ネオンみたいに光っていた。
周囲の撮影ドローン群も、
不規則に点滅している。
「ッ……!」
美玲が頭を押さえる。
「大丈夫か!?」
「……声が、聞こえる」
「え?」
「視聴者の感情が流れてくる……!」
レンの顔が青ざめた。
7000万人分の感情。
そんなもの、
人間が耐えられるわけがない。
だがその時。
《EYES》が、
新しい数値を表示した。
『登録者数
9,120万人』
「……は?」
レンが凍る。
まだ増えている。
しかも。
都市全域が、
完全に《MAY-LIN》へ熱狂し始めていた。




