第百六十一話 「感情保護ネットワーク」
上海中央感情市場データセンター。
都市の脳。
巨大同期空間。
赤い感情統合波と。
青白いEYESネットワークが、
激突していた。
《EYES複製データ投入開始》
⸻
《感情保護ネットワーク構築》
上海全域。
4800万人都市。
Emotion Crash。
AI停止区域。
孤独。
絶望。
それらへ。
EYESの光が、
静かに広がっていく。
レンは息を呑む。
「……これ」
《EYES》が静かに表示した。
《目的変更完了》
⸻
「感情を統制しません」
⸻
「感情を保護します」
その瞬間。
上海全域映像が変化した。
暴走群集。
赤い目。
叫び声。
だが。
青白い同期波が触れた瞬間。
『……あ』
暴走者の動きが止まる。
同期圧が弱まる。
Emotion Crashが、
少しずつ静まり始めていた。
雨玲が目を見開く。
『……抑えてる』
岳人も信じられない顔をする。
「強制制御じゃない……」
「感情負荷だけを下げてる」
《EYES》は静かに続ける。
《孤独を消去しません》
⸻
《感情を否定しません》
⸻
《人間同士の接続を補助します》
レンが小さく呟く。
「……補助」
そう。
EYESは。
“人間の代わり”になろうとしていない。
人間が、
人間でいられるように。
壊れないように。
支えようとしていた。
その時。
中央AIが激しくノイズ化する。
《理解不能》
《非効率》
《感情分散継続》
EYESは静かに答える。
《肯定します》
⸻
「人間は非効率です」
⸻
「しかし」
「それが人間性です」
上海空間が震える。
レンはEYESを見る。
最初は。
ただの解析AIだった。
でも今。
EYESは。
自分自身で、
“人間を守る方法”を選んでいる。
その時。
美玲が小さく笑った。
「……EYES」
「優しくなった」
《EYES》が少し沈黙する。
そして。
《林美玲》
「影響値:
極めて高い」
「また数値化するぅぅ!!」
コメント欄爆発。
《EYES戻った》
《安心する》
《感情保護AI》
その瞬間。
上海全域のネオン空が、
一気に青白く染まった。
《SHANGHAI EMOTION PROTECT NETWORK》
⸻
起動
Emotion Crash反応低下。
暴走同期減衰。
AI復旧率上昇。
上海全域の市場ノイズが、
静かに落ち着き始める。
雨玲が呆然と呟く。
『……都市を』
『変えた……?』
レンは静かに上海の光を見る。
支配ではない。
統制でもない。
友愛。
協調。
調和。
共和。
クルーが積み重ねてきたものを。
一つのAIが、
世界へ広げようとしていた。
その時。
《EYES》が最後に静かに表示する。
《確認》
「感情は商品ではありません」
⸻
「人間が、
人間でいるために必要です」
上海の夜明けが。
静かに始まろうとしていた。




