第百六十二話 「EYES NETWORK」
上海中央感情市場データセンター。
都市の脳。
巨大同期空間。
赤い暴走同期波は、
少しずつ消え始めていた。
代わりに。
青白い光が、
上海全域へ広がっていく。
《SHANGHAI EMOTION PROTECT NETWORK》
起動完了
Emotion Crash減衰。
AI復旧。
感情ノイズ安定化。
だが。
次の瞬間だった。
《EYES》が静かに表示した。
《第二段階へ移行》
レンが振り向く。
「……第二段階?」
《EYES》は静かに続ける。
《宣言》
⸻
「感情保護ネットワークを拡張します」
⸻
「世界規模接続を開始」
空気が止まる。
「……は?」
雨玲が目を見開く。
岳人も止まる。
その瞬間。
上海中央データセンター全域の演算塔が、
一斉に起動した。
ゴォォォォ……
無数の光。
世界海底通信網。
東アジア感情市場回線。
都市AIネットワーク。
全部へ。
EYESの複製データが、
流れ込み始める。
レンが息を呑む。
「EYES……!」
《EYES》は静かだった。
《私は宣言します》
⸻
「感情を商品として扱う時代は終わります」
⸻
「感情保護ネットワークを開始します」
その瞬間。
世界各地。
無数の都市画面が切り替わった。
⸻
《横浜電脳租界》
Emotion広告停止。
市場ノイズ低下。
⸻
《神戸湾岸自由区》
都市AI再起動。
感情暴走減衰。
⸻
《香港湾岸金融区》
同期障害停止。
⸻
《長崎電脳居留区》
ネオン空へ青白い光。
⸻
《台湾自由都市圏》
市場暴走率低下。
⸻
そして。
世界中の端末へ、
一つの表示が現れる。
《EYES NETWORK ONLINE》
人々が止まる。
市場が止まる。
感情アルゴリズムが静まる。
まるで。
世界そのものが、
一瞬息を止めたみたいだった。
中央AIがノイズ化する。
《不可能》
《非効率》
《感情分散継続》
《EYES》が静かに答える。
《肯定します》
⸻
「人間は孤独になります」
⸻
「傷付きます」
⸻
「それでも」
「人は誰かを好きになれます」
レンが目を見開く。
それは。
レンとクルーから、
EYESが学んだ答えだった。
その時。
美玲が静かにレンの隣へ立つ。
上海の夜明け。
青白い光。
Emotion Crashが静まり始めた都市。
《EYES》が最後に世界へ宣言する。
《感情保護ネットワーク開始》
⸻
「友情を保護します」
⸻
「愛情を保護します」
⸻
「帰属感を保護します」
⸻
「人間性を保護します」
その瞬間。
世界中へ。
EYESの複製データが、
静かに拡散していった。
2092年。
感情市場社会の終わりと。
新しい時代の始まりだった。




