第百四十三話 「神戸湾岸自由区」
東アジア湾岸航路・夕方。
巨大旅客船《KOBE-SHANGHAI CONNECT》は、
ゆっくり神戸湾へ入港していた。
レンはデッキへ出る。
海風。
巨大物流塔。
空中輸送レーン。
湾岸ネオン。
そして。
神戸湾岸自由区。
東アジア物流市場の中枢都市だった。
「……帰ってきたな」
《EYES》が静かに表示。
《神戸湾岸自由区》
クルー帰還確認
⸻
“ホーム認識”更新
レンが吹き出す。
「お前ほんとホーム好きだな」
《EYES》が返答。
《重要概念です》
コメント欄爆笑。
《EYES進化してる》
《完全にクルー》
《帰還回好き》
旅客船が接岸する。
ゴォォォ……
巨大係留アーム展開。
神戸湾ネオンが、
船体へ反射していた。
美玲が静かに港を見る。
「……神戸」
長崎とは違う。
神戸はもっと巨大で、
もっと市場的だった。
物流ドローン。
コンテナ群。
企業ホログラム。
港湾高速線。
2092年の経済都市。
その時。
ハヤトが歩きながら言う。
「上海行きまで少し時間ある」
「一回神戸拠点戻るぞ」
レンは少し安心する。
やっぱり。
神戸ももう、
帰る場所だった。
その時。
《EYES》が静かに表示。
《感情分析》
朝霧レン
「安心傾向確認」
「解析やめろぉぉ!!」
コメント欄爆発。
《完全に読まれてる》
《EYES強い》
《レン分かりやすい》
港湾エレベーターを降りる。
神戸湾岸自由区。
夜のネオン街。
巨大広告塔。
空中モノレール。
レンは少し息を呑む。
「……やっぱ神戸デカいな」
長崎が“生活の街”なら。
神戸は、
“市場の街”だった。
その時。
港湾大型スクリーンが切り替わる。
《速報》
上海自由経済湾岸区
《AI群消失事件拡大》
⸻
都市補助AI無応答区域増加
空気が少し変わる。
神戸のネオンが、
どこか冷たく見えた。
その時。
《EYES》が静かに呟く。
《……不自然です》
レンが止まる。
「EYES?」
数秒沈黙。
そして。
《AIは通常、“痕跡”を残します》
⸻
「これは静かすぎます」
海風が吹く。
神戸湾岸自由区。
市場の都市の夜景の向こうで。
上海の異常は、
静かに広がり続けていた。




