第百四十二話 「ヨコヅナ級」
東アジア湾岸航路。
《KOBE-SHANGHAI CONNECT》。
神戸湾岸自由区が、
少しずつ近づいていた。
巨大海上物流塔。
ネオン湾岸線。
空中輸送路。
神戸の夜景が、
海の向こうで光っている。
レンはまだ、
ネットランナー年収データを見ていた。
「……いや」
「まだ信じられん」
《EYES》が静かに表示。
《現在》
朝霧レン市場価値:
「上昇中」
「だから株みたいに言うな!」
コメント欄爆笑。
《主人公銘柄》
《レン高騰中》
《買いだな》
その時。
ハヤトが海を見ながら、
ぽつりと言った。
「お前」
「ネットランナーでヨコヅナになれるかもな」
空気が止まる。
「……は?」
レンが振り向く。
ヨコヅナ。
東アジア感情市場の頂点階級。
物流。
情報。
市場。
都市。
全部へ影響力を持つ存在。
レンは思わず吹き出した。
「いやいやいや!!」
「無理だろ!!」
ハヤトは缶コーヒーを飲みながら続ける。
「俺は見たことないが」
「前例ゼロ!?」
コメント欄爆発。
《ネットランナーヨコヅナ》
《主人公ルート》
《前代未聞》
ハヤトは少し真面目だった。
「普通ヨコヅナは」
* コーポレート
* 物流王
* 武装勢力
* 市場支配者
「そういう連中だ」
「ネットランナーは裏方」
「だが」
ハヤトはレンを見る。
「お前は」
「人を繋げる側だ」
レンは少し止まる。
EMOTION SIREN。
長崎。
MAY-LIN LIVE。
EYES。
クルー。
確かに。
ただ情報を盗むだけじゃなかった。
その時。
美玲が静かに言った。
「……似合う」
「えぇ……」
「レン」
「変なところで人助けする」
「褒めてる?」
「褒めてる」
藍華も笑う。
「実際、今の市場だと珍しいタイプだよ」
《EYES》が静かに表示。
《分析》
朝霧レン
⸻
“感情接続型ネットランナー”
「極めて稀」
レンが頭を抱える。
「肩書き増やすなぁぁぁ!!」
その時。
船窓の向こう。
神戸湾岸自由区の巨大ネオンが、
完全に見えてきた。
《神戸湾岸自由区》
クルーの本拠。
市場の街。
そして。
上海異常の入口。
ハヤトが静かに立ち上がる。
「帰るぞ」
海風が吹く。
2092年。
ネオンの海の上で。
一人の新人ネットランナーは。
まだ知らなかった。
自分が本当に、
どこまで行けるのかを。




