第百四十一話 「ネットランナーの年収」
東アジア湾岸航路。
巨大旅客船《KOBE-SHANGHAI CONNECT》。
朝食後。
レンたちは船内ラウンジへ移動していた。
海が見える。
ネオン海上物流路。
静かな航海時間だった。
レンはソファへ座りながら、
端末を見ていた。
《ネットランナー資格認証》
まだ少し実感がない。
「……なぁ」
レンがふと聞く。
「ネットランナーって」
「実際どれくらい稼げるんだ?」
その瞬間。
ハヤトが吹き出した。
「今それ聞くか?」
「いや気になるだろ!」
コメント欄爆笑。
《給料回》
《現実的》
《夢ある?》
ハヤトは缶コーヒーを飲みながら言う。
「ピンキリだ」
「底辺は普通」
「上位は化け物」
《EYES》が補足表示。
《2092年 東アジア圏》
ネットランナー推定年収
⸻
初級
1200万〜3000万円
⸻
中級
5000万〜2億円
⸻
上級
10億円超
⸻
特級・企業級
「国家機密」
沈黙。
レンが止まる。
「…………は?」
コメント欄爆発。
《反応草》
《夢ある》
《高ぇ》
レンは画面二度見した。
「待て待て待て」
「初級で1200万!?」
ハヤトが笑う。
「感情市場時代の情報屋舐めんな」
「ネットランナーは物流と感情と企業秘密全部触る」
レンの顔が引きつる。
「いやいやいや」
「深圳ネットランナー職業訓練高等専門課程ってそんな世界だったの!?」
《EYES》が静かに補足。
《追加情報》
朝霧レン現在推定市場価値
「上昇中」
「やめろ怖い!!」
コメント欄爆笑。
《市場価値》
《主人公高騰》
《株みたい》
その時。
ハヤトが少し真面目な顔になる。
「ただし」
「長生きしない奴も多い」
空気が少し静まる。
「企業に追われる」
「市場に狙われる」
「感情汚染も食らう」
「だから高い」
レンは少し黙る。
確かに。
EMOTION SIRENだけでも、
普通に死にかけた。
その時。
美玲が小さく言った。
「……でも」
「レン向いてる」
「え?」
「人助けするから」
レンは少し止まる。
ハヤトも笑った。
「それは強い」
《EYES》が静かに表示。
《分析》
朝霧レン
「クルー適性:高」
⸻
「相棒型ネットランナー傾向」
「ジョブ診断みたいに言うな!」
その時。
船窓の向こう。
遠くに巨大ネオン都市群が見え始める。
《神戸湾岸自由区 接近》
ハヤトが立ち上がる。
「帰るぞ」
レンも窓を見る。
神戸。
クルーの本拠。
そしてその先には。
AIが消える都市、
上海が待っていた。




