第百四十話 「湾岸旅客線」
東アジア湾岸航路。
長崎を出港した巨大旅客船は、
静かな海を進んでいた。
《KOBE-SHANGHAI CONNECT》
白い船体。
ネオンライン。
海上物流ドローン護衛。
完全に2092年の未来客船だった。
レンはデッキへ出る。
海風。
朝日。
ネオン海。
「……なんか」
「旅行感あるな」
《EYES》が即反応。
《補足》
「現在は移動中です」
「そのまんまだな!」
コメント欄爆笑。
《船旅回》
《好き》
《移動回いい》
その時。
美玲がデッキ手すりにもたれて海を見ていた。
風で黒髪が揺れる。
「……静か」
長崎の喧騒も。
感情兵器も。
今は遠い。
その時。
ハヤトが船内端末を見ながら言った。
「神戸到着までは平和だろ」
数秒後。
船内放送が鳴る。
《本日の湾岸朝食ビュッフェを開始します》
レンが振り向く。
「行くぞ」
「お前も飯優先になってきてるな!?」
コメント欄爆発。
《感染してる》
《港町クルー》
《飯は大事》
船内レストラン。
巨大パノラマ窓。
海上景色。
そして。
料理数が異常だった。
《神戸湾岸朝食》
* 港湾オムレツ
* 海鮮粥
* 神戸人工培養ステーキ
* 上海小籠包
* 台湾式電脳豆乳
* 香港ネオン飲茶
「朝から重い!!」
ハヤトが普通に皿を取る。
「長距離航路は飯が強い」
黒犬も無言で山盛り。
藍華が笑う。
「黒犬めちゃくちゃ食べるよね」
その時。
美玲は。
普通に小籠包を大量確保していた。
「またか!」
《EYES》が静かに表示。
《分析》
林美玲は高確率で点心類を選択します
「食習慣学習やめろぉぉ!!」
コメント欄爆笑。
《EYES精度高い》
《点心歌姫》
《完全解析済み》
その時。
船窓の向こう。
巨大海上物流都市群が見え始める。
ネオン海上基地。
浮遊コンテナ群。
湾岸物流塔。
レンは少し息を呑む。
「……世界広いな」
ハヤトも珍しく真面目だった。
「東アジア湾岸圏は全部繋がってる」
「物流も」
「感情市場も」
その時。
《EYES》が静かに表示する。
《上海自由経済湾岸区》
AI群消失事件
⸻
未解決
空気が少し変わる。
海の向こう。
まだ見えない上海。
そこでは。
“AIが消える”という、
静かな異常が起きていた。




