第百三十三話 「幸福値」
長崎電脳居留区・昼。
海霧は少し晴れ、
港町へ柔らかい日差しが差していた。
坂道市場。
港湾屋台。
ネオン提灯。
昨日まで感情兵器と戦っていたとは思えないくらい、
街は平和だった。
レンたちは市場奥の休憩デッキへ座っていた。
海が見える。
貨物船。
物流ドローン。
長崎の空気は、
どこか落ち着いていた。
その時。
《EYES》が静かに表示した。
《クルー感情状態分析》
⸻
朝霧レン
「安定」
⸻
林美玲
「幸福値高」
⸻
クルー全体
「帰属感上昇」
レンが吹き出す。
「お前最近」
「幸福値好きだな」
《EYES》が返答。
《重要概念と認識》
美玲は少し首を傾げた。
「……重要なの?」
《EYES》は数秒沈黙した後。
《回答》
「はい」
⸻
「幸福値低下時、
クルー全体効率も低下します」
「言い方がAIなんだよなぁ」
コメント欄爆笑。
《効率》
《まだAI》
《でも優しい》
その時。
藍華が笑う。
「でもEYESなりに」
「心配してるんじゃない?」
《EYES》が即反応。
《訂正》
「心配ではありません」
数秒後。
《補足》
「クルー維持を優先しています」
レンがニヤつく。
「それを心配って言うんだよ」
沈黙。
《EYES》が止まる。
そして。
《学習中……》
全員吹き出した。
その時。
美玲が静かに海を見る。
「……EYES」
《EYES》が反応。
《はい》
「前より好き」
数秒沈黙。
完全に沈黙。
レンが笑う。
「フリーズしてるぞ」
コメント欄爆発。
《AI照れてる》
《EYESかわいい》
《完全にクルー》
その時。
《EYES》がゆっくり表示した。
《回答》
「……ありがとうございます」
レンたちが少し止まる。
以前のEYESなら、
こんな返答はしなかった。
ただの監視AIだった。
でも今は違う。
飯。
港町。
クルー。
日常。
その全部を通して。
AIですら、
少しずつ変わり始めている。
その時。
美玲の腹が鳴った。
全員沈黙。
「……」
「……」
レンが吹き出した。
「幸福値下がってるぞ」
《EYES》が即表示。
《警告》
林美玲空腹確認
⸻
肉まん補給を推奨します
「完全に学習完了してるぅぅぅ!!」
長崎の港町へ、
クルーの笑い声が響いた。




