第百三十四話 「ネオン坂の雨」
長崎電脳居留区・夕方。
空から、
細かな雨が降り始めていた。
石畳。
坂道。
赤提灯ネオン。
雨粒が、
街の光を滲ませている。
「……長崎って」
「雨似合うな」
レンが呟く。
《EYES》が即解析。
《長崎電脳居留区》
降雨時景観評価:
「非常にサイバーパンク」
「景観評価とかあるのかよ」
コメント欄爆笑。
《わかる》
《雨の長崎いい》
《ネオン反射最高》
レンたちは、
坂道途中の屋根付き休憩所へ入った。
海が見える。
ネオンが雨へ溶けていた。
その時。
美玲が静かに窓外を見る。
「……好き」
「雨?」
「この街」
レンは少し笑う。
「完全に気に入ったな」
美玲は頷く。
「落ち着く」
海風が吹く。
雨音。
遠くの港湾警笛。
長崎は、
騒がしいのに静かな街だった。
その時。
藍華が端末を見ながら吹き出した。
「うわ」
「また伸びてる」
レンが見る。
《MAY-LIN LIVE》
長崎感謝祭ライブ切り抜き
《再生数:38億回突破》
「意味分かんねぇぇぇ!!」
コメント欄爆発。
《世界歌姫》
《港町ライブ神》
《海霧ライブ好き》
その時。
《EYES》が静かに表示した。
《分析》
“安心感情”を求める視聴傾向増加
⸻
MAY-LIN LIVE依存率上昇
レンの顔が少し変わる。
「……依存?」
美玲も画面を見る。
《EYES》は続ける。
《補足》
「視聴者は“安心できる場所”を求めています」
沈黙。
レンは少し考える。
この世界は、
感情市場に壊され続けている。
だから人は。
安心できる配信。
帰れる空気。
そういうものへ集まるのかもしれない。
その時。
美玲が小さく呟いた。
「……私も」
「ここに来て安心した」
レンは少し止まる。
最初の頃の美玲は。
いつも張り詰めていた。
でも今は違う。
雨のネオン街を見ながら、
普通に落ち着いている。
その時。
《EYES》が静かに表示した。
《感情分析》
林美玲
「幸福値:高」
⸻
「帰属感:上昇」
美玲が少し笑う。
「……また幸福値」
レンも笑った。
「もう完全に覚えたな」
《EYES》が返答する。
《はい》
⸻
「重要な数値です」
雨が降る。
ネオンが滲む。
長崎電脳居留区。
2092年の港町で。
クルーたちは少しずつ、
本当に“帰る場所”になっていった。




