第百三十二話 「AIと肉まん」
長崎電脳居留区・朝。
海霧が、
ゆっくり坂道を流れていた。
感謝祭翌日。
港町は少し静かだった。
レンたちは、
長崎市場通りを歩いている。
赤提灯ネオン。
朝市屋台。
港湾ドローン。
完全に“長崎の日常”だった。
その時。
美玲が立ち止まる。
「……肉まん」
「今日もか」
既に恒例だった。
コメント欄爆笑。
《肉まん回》
《MAY-LINの日常》
《安心感》
屋台AIが即反応する。
《MAY-LIN様確認》
本日のおすすめ:
「海霧角煮まん」
「名前が強いな」
その時。
《EYES》が突然表示した。
《分析》
林美玲は高確率で肉まんを選択します
全員止まる。
レンが振り向く。
「……お前」
「そんな学習してんの?」
《EYES》が返答。
《はい》
クルー生活学習結果です
美玲が少しむっとする。
「……私はそんな単純じゃない」
そして。
普通に肉まんを買った。
レンが吹き出す。
「選んでるじゃねぇか!」
コメント欄爆発。
《EYES正解》
《AI学習完了》
《肉まん精度100%》
その時。
《EYES》がさらに表示。
《追加分析》
林美玲幸福値:
「上昇中」
美玲が止まる。
「……幸福値」
レンも少し黙る。
以前なら。
《EYES》は、
感情を“数値”としてしか見てなかった。
でも今は違う。
幸福。
安心。
帰属感。
そういうものを、
少しずつ理解し始めている。
その時。
《EYES》が静かに続けた。
《補足》
「現在のクルー状態は良好です」
レンが少し笑う。
「……なんか」
「お前変わったな」
《EYES》は数秒沈黙した。
そして。
《回答》
「学習しました」
海風が吹く。
長崎の坂道ネオンが揺れる。
その時。
美玲が肉まんを半分差し出した。
「……レン」
「ん?」
「幸福値上げる?」
「なんだその渡し方」
全員少し笑う。
2092年。
感情市場世界の片隅で。
一つのAIが。
少しずつ、
“人間らしさ”を学び始めていた。




