第百二十三話 「卒業試験前なんですけど!?」
海底通信層。
暗いデジタル海。
感情データの濁流が、
無数に渦巻いていた。
怒り。
不安。
孤独。
負の感情そのものが、
海流みたいに流れている。
その中心。
巨大黒塔。
《EMOTION SIREN CORE》
レンは海底電脳空間で絶叫していた。
「俺まだ!!」
「深圳ネットランナー職業訓練高等専門課程の!!」
「卒業試験合格してないのにぃぃぃ!!」
《EYES》が冷静に返す。
《補足》
現在実戦中です
「補足になってねぇ!!」
コメント欄爆発。
《現場試験》
《実地研修》
《ブラック教育》
その時。
海底感情波が揺れた。
ゴォォォ……
黒い感情データが、
レンへ襲いかかる。
《EYES》が警告。
《高濃度不安感情接近》
⸻
精神汚染リスク上昇
レンは歯を食いしばる。
「うおっ!?」
視界へ、
大量の感情ノイズが流れ込む。
⸻
『不安だ』
『孤独だ』
『誰も信じるな』
⸻
「っ……!」
頭が揺れる。
新人ネットランナーには、
刺激が強すぎた。
その瞬間。
優しい歌声が聞こえた。
⸻
♪「君は一人じゃない」
⸻
《MAY-LIN LIVE》。
海上から届く、
美玲の歌だった。
黒い感情波が少し押し返される。
《EYES》が解析。
《感情安定化》
MAY-LIN LIVE同期補助確認
レンは息を吐く。
「……助かった」
その時。
通信が入る。
『レン!』
美玲の声。
「大丈夫!?」
レンは苦笑する。
「全然大丈夫じゃねぇ!」
「今海底感情地獄なんだけど!?」
海上側。
美玲は少し真剣な顔だった。
『でも』
『レンなら行ける』
「急に信頼重い!」
コメント欄爆笑。
《夫婦感》
《完全に相棒》
《MAY-LIN強い》
その時。
《EMOTION SIREN CORE》が起動する。
ドォォォン!!
海底空間へ、
巨大感情波が放出された。
怒り。
恐怖。
絶望。
感情津波。
《EYES》が最大警告。
《危険》
中央同期核防衛機構起動
⸻
“感情防壁”展開
レンの顔が引きつる。
「防衛機構まであるのかよ!?」
その瞬間。
黒い海底空間へ、
無数の赤い人影が現れた。
港湾労働者。
ノーマッド。
感情データで再現された、
Emotion Crash被害者たち。
そして全員が。
『不安だ』
『苦しい』
『助けて』
レンは息を呑む。
《EYES》が静かに言った。
《試験です》
「こんな卒業試験あるかぁぁぁ!!」




