第百二十一話 「ネオン坂港防衛線」
長崎港外縁部。
海霧の中で、
《EMOTION SIREN》が低く唸っていた。
ゴォォォ……
海面が揺れる。
感情波が、
港全体へ広がっていく。
《EYES》が警告を表示。
《広域感情汚染進行》
長崎電脳居留区接触予測
『12分後』
レンの顔が青ざめる。
「早すぎるだろ!?」
海上ニュースホログラムも、
完全に緊急事態モードへ変わっていた。
《速報》
長崎港湾区 感情異常警報
⸻
一部住民感情不安定化
⸻
港湾市場閉鎖開始
その瞬間。
長崎側ネオン街がざわつき始める。
坂道市場。
屋台街。
港湾食堂。
日常だった街が、
不安に飲まれ始めていた。
レンは海霧の向こうを見る。
「……止めないと」
その時。
美玲が静かに言った。
「守る」
赤い瞳。
真っ直ぐだった。
「この街」
「好きだから」
レンは少し止まる。
長崎へ来てまだ数日。
でも。
この港町は、
もうクルーにとって“居場所”になり始めていた。
その時。
ハヤトが端末を展開する。
《長崎港マップ》
複数の赤点。
Emotion Crash反応。
「感情汚染が街側へ流れてる」
「どう止める!?」
ハヤトが険しい顔で言う。
「SIREN本体止めるしかねぇ」
《EYES》も同時解析。
《EMOTION SIREN》
特徴
* 海底通信型
* 広域感情増幅
* 音響同期兵器
⸻
弱点候補
「中央感情同期核」
レンが見る。
「核?」
「感情同期装置の心臓部だ」
ハヤトは海底施設を睨む。
「だが問題は」
その時。
ゴォォォォ!!
SIRENの出力が上がった。
海面へ、
巨大ノイズ波紋が広がる。
港町側から悲鳴。
「イライラする……!」
「不安だ……!」
Emotion Crash拡大。
《EYES》が警告。
《長崎市街地汚染開始》
レンが歯を食いしばる。
「くそっ!」
その瞬間。
美玲がマイクを握った。
海風。
ネオン。
海霧。
そして。
《MAY-LIN LIVE》
《同接:19億3000万人》
「19億!?」
コメント欄も完全に世界規模。
《長崎守れ!》
《MAY-LIN!》
《負けるな!》
その時。
美玲が静かに言った。
「レン」
「ネットランナー」
「できる?」
レンは止まる。
《EYES》が即反応。
《海底通信層侵入可能性》
成功率:不明
ハヤトが振り向く。
「お前」
「潜るのか?」
レンは海を見る。
EMOTION SIREN。
感情兵器。
そして。
不安に揺れる長崎の街。
飯屋。
坂道。
海霧。
クルーの日常。
全部守りたかった。
レンは深く息を吸う。
「……やる」
《EYES》が起動する。
《都市電脳潜航開始準備》
2092年。
ネオン坂港で。
一人の新人ネットランナーが、
初めて“海底感情ネット”へ潜ろうとしていた。




