第百十九話 「海底通信層」
長崎港外縁部。
海霧が、
不自然に揺れていた。
ネオン海面。
停止した物流施設。
そして。
海底から響く、
巨大な低音。
ゴォォォ……
レンは海を見つめる。
「……何がいるんだよ」
《EYES》が高速解析を続ける。
《海底通信層スキャン》
異常大型通信ノード確認
⸻
旧式感情同期設備反応
⸻
稼働状態:不明
ハヤトの顔が険しくなる。
「旧式だと……?」
藍華が振り向く。
「知ってるの?」
ハヤトは少し嫌そうに言った。
「2090年代初期」
「感情市場が暴走しかけた時代がある」
レンは眉をひそめる。
「暴走?」
「当時は」
「今みたいに制御されてなかった」
海風が吹く。
「違法感情同期設備が大量に作られた」
「その中には」
「“歌”で感情を操る実験設備もあった」
レンの顔が変わる。
「まさか……」
《EYES》が表示。
《推定》
海底旧式感情施設
『存在可能性:高』
その時。
海霧の奥から、
また歌声が流れた。
⸻
♪――――
⸻
歪んだノイズ。
だが。
今回は前より強い。
港湾作業員たちの顔が歪む。
「うるさい……!」
「イライラする……!」
Emotion Crash再上昇。
《EYES》が警告。
《集団感情暴走接近》
レンが叫ぶ。
「まずい!」
その瞬間。
美玲が一歩前へ出た。
海風が髪を揺らす。
赤い瞳。
ネオン。
《MAY-LIN LIVE》。
そして。
今回は、
静かな歌じゃなかった。
低く。
力強い。
⸻
♪「Wake up」
♪「感情は誰のものだ」
♪「君の心は商品じゃない」
⸻
声が響く。
海霧を裂くみたいに。
すると。
暴走しかけていた作業員たちの目が、
一瞬戻った。
《EYES》が解析。
《対抗感情同期》
MAY-LIN LIVE優位化
⸻
集団安定率回復
レンは息を呑む。
「……強い」
その時。
海面中央が揺れた。
ドォン!!
巨大水柱。
全員が振り向く。
海霧の中から、
巨大構造物が浮かび上がる。
黒い塔。
錆びた通信アンテナ。
海底ケーブル。
そして。
古いロゴ。
《EMOTION SIREN》
ハヤトの顔が変わった。
「……最悪だ」
レンが聞く。
「何だよあれ!?」
ハヤトは低く言った。
「初期型感情誘導兵器だ」




