第百十六話 「海上暴走」
長崎港外縁部。
海霧の向こう。
警告灯が赤く点滅していた。
海上物流施設群。
巨大コンテナクレーン。
自動輸送ドローン。
その全てが、
異常動作を始めている。
レンたちは、
海上ノーマッド艇で現場へ向かっていた。
エンジン音。
潮風。
ネオン海。
完全に海上サイバーパンクだった。
「……うわ」
レンが息を呑む。
施設の様子がおかしい。
物流ロボが暴走。
感情広告が乱点滅。
港湾作業員たちが、
互いに怒鳴り合っている。
《EYES》が警告を表示。
《Emotion Crash拡大》
海上労働ネット同期暴走
⸻
集団感情汚染進行
「集団で起きてるのか!?」
ハヤトが舌打ちする。
「港湾労働感情ネットだ」
「物流効率化用の感情同期システムがある」
「また感情ネットかよ!」
その時。
巨大コンテナクレーンが暴走した。
ギギギギギ!!
アームが強制旋回。
海上コンテナが崩れ落ちる。
「危なっ!?」
黒犬が即動いた。
ダン!!
ワイヤー射出。
コンテナ方向を強制変更。
海へ落下する。
水柱が上がった。
コメント欄爆発。
《黒犬強》
《傭兵だ》
《映画みたい》
その時。
港湾作業員の一人が叫ぶ。
「止まれぇぇぇ!!」
感情暴走。
目が赤い。
完全にEmotion Crash状態だった。
《EYES》が解析。
《状態》
集団不安感情暴走
⸻
“恐慌型Emotion Crash”
レンが歯を食いしばる。
「どうする!?」
その時。
美玲が前へ出た。
海霧。
ネオン。
赤い瞳。
そして。
静かにマイクを握る。
「……落ち着いて」
《MAY-LIN LIVE》自動接続。
《海上緊急ライブ》
同接:17億9000万人
「また世界規模!?」
だが。
今回は違う。
美玲は叫ばない。
煽らない。
ただ。
静かに歌い始めた。
⸻
♪「Breathe slowly」
♪「海はまだ calm」
♪「感情は壊れてない」
⸻
海風が吹く。
ネオンが揺れる。
暴走していた港湾作業員たちの動きが、
少しずつ止まっていく。
《EYES》が解析する。
《感情同期安定化》
MAY-LIN LIVE干渉確認
⸻
Emotion Crash低下
レンは息を呑む。
「……本当に」
「止めてる」
その時。
暴走クレーンが、
ゆっくり停止した。
赤警告灯も消えていく。
海霧の中。
静寂が戻る。
だが。
《EYES》が新警告を表示した。
《異常信号検知》
発信源不明
⸻
外部感情干渉疑い
ハヤトの顔が険しくなる。
「……誰かが」
「意図的に流してるな」
レンも理解する。
これは事故じゃない。
誰かが。
Emotion Crashを、
港へ流している。




