第百十三話 「港湾市場」
長崎電脳居留区・午前。
海霧が少し晴れ、
港町へ朝日が差し込んでいた。
坂道市場は、
すでに活気に満ちている。
海産物ドローン。
AI呼び込み。
港湾ロボ。
ネオン看板。
2092年の市場なのに、
妙に人間臭かった。
レンたちは、
朝食後に市場通りを歩いていた。
「……長崎って」
「生活感すげぇな」
レンが呟く。
池袋は熱狂。
神戸は市場。
でも長崎は。
人が暮らしてる音がする。
《EYES》が解析を表示。
《長崎港湾市場》
特徴
* 人力商売率:高
* AI依存率:中
* 感情交流密度:高
⸻
“地域共同体傾向”確認
「地域共同体って言葉」
「この時代で久々に聞いたな……」
コメント欄爆笑。
《長崎だけ人間社会》
《落ち着く》
《港町好き》
その時。
市場奥で、
蒸気が上がっていた。
《港湾点心街》
「……小籠包」
美玲の目が反応する。
「また飯センサー起動した」
「レン」
「ん?」
「食べ歩きしたい」
「修学旅行生か!?」
藍華が吹き出す。
ハヤトも笑う。
「長崎来たら基本だ」
結局。
全員普通に屋台巡りが始まった。
小籠包。
角煮まん。
海鮮串。
港湾春巻き。
完全にグルメ街だった。
その時。
《MAY-LIN LIVE》がまた自動接続される。
《長崎市場食べ歩き配信》
同接急上昇
「また世界配信!?」
コメント欄爆発。
《平和回好き》
《MAY-LINかわいい》
《食べてるだけで癒やし》
レンは頭を抱える。
「なんで飯食ってるだけで世界規模なんだよ……」
《EYES》が静かに分析。
《感情解析》
視聴者安定率上昇
⸻
“疑似共同食事感覚”発生
レンは少し止まる。
共同食事。
それが。
今の世界には不足してるのかもしれない。
その時。
市場の大型ホログラムニュースが変わった。
《速報》
長崎港外縁部通信障害継続
⸻
海上ノーマッド連合一部消息不明
空気が少し変わる。
ハヤトの顔も真面目になる。
「……やっぱ来るな」
レンが聞く。
「何が?」
その時。
《EYES》が警告を表示した。
《感情波異常拡大》
海上区域
『Emotion Crash前兆反応上昇』
美玲も静かに海方向を見る。
海霧の向こう。
何かが起きている。
でも。
その前に。
美玲が角煮まんを差し出した。
「レン」
「半分」
「今その空気!?」
全員少し笑う。
危機は近い。
でも。
クルーの日常も、
ちゃんとそこにあった。




