第十一話 「租界の女王は、逃げない」
『感情異常者を排除します』
赤い警告表示が、
暗転した校舎に不気味に浮かぶ。
窓の外には、
黒い監視ドローン群。
完全武装。
学園全体を包囲していた。
「……おいおい」
レンの声が引きつる。
「排除って言ったよな今」
「言ったね」
美玲は男子生徒から視線を外さない。
暴走状態はさらに悪化していた。
呼吸異常。
瞳孔拡張。
端末発熱。
《EYES》が警告を鳴らし続ける。
『精神崩壊率:95%』
『生命維持限界接近』
「マズい……!」
レンは歯を食いしばる。
「このままだとアイツ死ぬぞ!」
「……分かってる」
美玲は静かに答えた。
その時。
男子生徒が咆哮する。
「ァァァァアアア!!」
床を蹴る。
一直線に美玲へ突進。
だが。
「遅い」
次の瞬間。
美玲の身体が滑るように動いた。
最小動作。
回避。
掌底。
男子生徒の重心が一瞬で崩れる。
「え?」
レンが目を見開く。
そのまま美玲は、
男子生徒の腕を取り――
投げた。
轟音。
男子生徒の身体が床へ叩きつけられる。
「柔道……?」
「中国武術」
美玲は静かに構え直した。
呼吸が異様に安定している。
「いや今どうなった!?」
「崩拳からの投技」
「分からん!」
男子生徒が立ち上がる。
だが美玲は冷静だった。
重心。
視線。
呼吸。
全部を見切っている。
《EYES》が反応する。
『対象:林美玲
戦闘訓練反応
身体制御精度:異常』
レンは青ざめた。
「お前マジで何者だよ……」
「配信者」
「その答えもう無理あるだろ」
男子生徒が再び襲いかかる。
拳。
蹴り。
暴走した力任せの連撃。
だが美玲は全部避ける。
流す。
崩す。
打つ。
まるで踊っているみたいだった。
「小さい頃からやらされたの」
美玲が言う。
「林グループの人間は、誘拐も襲撃も普通だから」
「物騒すぎるだろ財閥」
「租界だし」
直後。
男子生徒の拳が振り下ろされる。
美玲は半身で躱し、
肘を打ち込む。
「ッ……!」
男子生徒の動きが止まる。
そこへ。
美玲は首へ腕を回した。
「――寝て」
絞め技。
男子生徒の身体が崩れる。
沈黙。
やがて完全に動かなくなった。
レンは呆然と立ち尽くす。
「……マジで制圧した」
美玲は息を吐いた。
だが。
《EYES》が再び警告を鳴らす。
『新規感情暴走反応』
「……は?」
レンが顔を上げる。
廊下の向こう。
教室。
階段。
校内各所で。
赤い目をした生徒たちが、
ゆっくり立ち上がっていた。
「おい……冗談だろ」
校内モニターが赤く明滅する。
『感情同期暴走を確認』
『対象数:37』
レンの喉が乾く。
「三十七人……?」
美玲も表情を変えた。
「これ……誰かが意図的にやってる」
その瞬間。
校内スピーカーから、
ノイズ混じりの笑い声が流れた。
『――実験は成功だ』
知らない男の声だった。
『さあ見せてくれ』
『感情に支配された人間の姿を』




