第十話 「赤く染まる感情」
「美玲!!」
レンが叫ぶ。
次の瞬間。
暴走した男子生徒が、
獣みたいな速度で突っ込んできた。
「ァァァァアアア!!」
「ッ!」
美玲がレンを突き飛ばす。
轟音。
男子生徒の拳が廊下の壁を砕いた。
粉塵。
警報。
逃げ惑う学生たち。
『危険行動を検知』
『学園警備部へ通報しました』
だが誰も近づけない。
感情暴走状態の人間は危険すぎる。
レンは床を滑りながら《EYES》を確認した。
『対象:男子生徒
外部感情干渉:確認
強制恋愛依存プログラム反応』
「……は?」
レンの顔が凍る。
強制恋愛依存。
そんな違法プログラム、
ブラックマーケットでも聞いたことがない。
「レン!」
美玲が叫ぶ。
「その端末、接続切れる!?」
「無理だ! 干渉強すぎる!」
男子生徒が再び突進する。
目がおかしい。
焦点が合っていない。
なのに、
視線だけは美玲へ異常に執着していた。
「林さん……」
掠れた声。
「俺、ちゃんと課金したのに……」
レンが固まる。
「……課金?」
「スパチャもした……メンバー入った……なのに……!」
美玲の表情が曇る。
男子生徒の端末には、
大量の《MAY-LIN》配信履歴が表示されていた。
『恋愛感情誘導広告』
『感情最適化プログラム』
『推奨依存率:95%』
レンの背筋に寒気が走る。
「なんだよこれ……」
まるで、
人間の感情を商品みたいに扱っている。
その時。
美玲が低く呟いた。
「……もう始まってるんだ」
「は?」
「《EVA》の次世代実験」
男子生徒が頭を抱える。
「苦しい……苦しい……!」
そして。
赤い瞳でレンを見る。
「お前がいるから……!」
「いや知ら――」
瞬間。
男子生徒が飛んだ。
速い。
完全に人間の動きじゃない。
「ッ!!」
レンが避けきれない。
だが。
「レン!!」
美玲が割り込む。
彼女は男子生徒の腕を掴んだ。
衝撃。
床が軋む。
「なっ……!?」
レンは目を見開く。
細い腕なのに、
男子生徒の突進を止めていた。
《EYES》が反応する。
『対象:林美玲
身体補助AI反応検知』
「お前も改造してんのか!?」
「租界育ちナメないで!」
美玲が男子生徒を蹴り飛ばす。
吹き飛ぶ身体。
周囲から悲鳴。
だが男子生徒は立ち上がる。
完全に理性が飛んでいた。
『精神崩壊率:92%』
「マズい!」
レンが叫ぶ。
「このままだと脳焼き切れる!」
美玲は唇を噛む。
その時。
校舎全体が突然暗転した。
「……え?」
電気が落ちる。
ネオン消失。
沈黙。
そして。
校内モニターが一斉に赤く点灯した。
『EVA特別監査開始』
『対象:港湾第七学園』
『感情異常者を排除します』
レンの全身が凍る。
「……排除?」
次の瞬間。
校舎の窓の外に、
無数の黒いドローンが浮かび上がった。




