第九話 「感情暴走」
悲鳴。
それは、
校舎の空気を一瞬で凍らせた。
「きゃあああっ!?」
「うわっ!」
「誰か止めろ!!」
次の瞬間。
廊下の奥から、
男子生徒が飛び出してきた。
目が赤い。
呼吸が荒い。
腕のウェアラブル端末が異常発光している。
『警告』
『感情暴走状態を確認』
『周囲の生徒は避難してください』
レンの顔が引きつる。
「マジかよ……」
感情暴走。
《EVA》社会で最も恐れられている症状。
感情抑制AIの負荷に脳が耐えられなくなり、
精神が暴発する現象だ。
特に、
* 怒り
* 嫉妬
* 恐怖
* 恋愛依存
など強い感情で起きやすい。
そして租界では、
決して珍しくなかった。
「近づくなァァァ!!」
男子生徒が壁を殴る。
コンクリートが砕けた。
「うおっ!?」
「危なっ!」
周囲の学生が逃げ惑う。
廊下がパニックになる。
レンは咄嗟に《EYES》を起動した。
『対象:男子生徒
感情暴走率:87%
精神負荷:限界』
「……高すぎる」
しかもおかしい。
通常の暴走より、
感情波形が乱れすぎていた。
ノイズ。
異常なデータ干渉。
まるで、
誰かが無理やり感情を書き換えたみたいな――
「レン!」
美玲が叫ぶ。
「避難!」
「いや待て、これ変だ!」
「は?」
その瞬間。
暴走した男子生徒が、
突然こちらを向いた。
そして。
「……MAY-LIN」
低い声。
レンの背筋が凍る。
男子生徒の瞳には、
異常な執着が浮かんでいた。
『対象感情:恋愛依存』
『執着レベル:危険域』
「うわ」
レンは一歩下がる。
男子生徒は震える声で呟いた。
「なんで……」
「え?」
「なんで、あんな奴といるんだよ……!」
直後。
男子生徒がレンへ突進した。
「死ねぇぇぇッ!!」
「うおっ!?」
レンは咄嗟に身を逸らす。
拳が壁へ突き刺さる。
コンクリート粉塵。
周囲から悲鳴。
「ヤバっ……!」
普通じゃない。
感情暴走状態の身体強化。
アドレナリンと神経加速による異常出力だ。
男子生徒は再びレンへ迫る。
「お前さえいなければ!!」
「知らねぇよ!!」
レンは全力で後退する。
だが相手は速い。
次の瞬間。
男子生徒の腕がレンを掴みかけた。
――その時。
「触るな」
低い声。
美玲だった。
彼女は男子生徒の前へ立つ。
赤い瞳が冷たく光る。
「……林、さん」
男子生徒の動きが止まる。
まるで夢から覚めたみたいに。
だが《EYES》は警告を出していた。
『精神状態:崩壊寸前』
美玲は静かに言う。
「アンタ、誰に感情弄られたの?」
「……え?」
「その波形、自然じゃない」
レンも気づいていた。
この暴走、
何かがおかしい。
男子生徒は苦しそうに頭を押さえる。
「俺は……ただ……」
その瞬間。
男子生徒の端末が赤く発光した。
『遠隔接続確認』
「ッ!?」
レンの《EYES》が激しく警告を鳴らす。
『危険』
『感情強制上昇プログラムを検知』
「美玲!!」
直後。
男子生徒の瞳が、
完全に赤く染まった。




