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推しのVtuberが同級生だったけど、元配信者の俺だけがその正体に気づいてしまった』 ~しかも向こうは俺の過去を知っているらしい~  作者: カルラ


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第7章 特別扱いの理由

 その日の夜。


 パソコンの前に座りながら、俺は少しだけ躊躇していた。


 画面には、いつもの待機枠。

 ルミナ・レイの配信開始まで、あと数十秒。


 見ないという選択肢もある。


 距離を取る。

 関わらない。


 それが一番、安全だ。


 ――分かっている。


 それでも。


「……逃げても意味ないか」


 小さく呟いて、ヘッドホンをつける。


 ここまで来て、見ない方が不自然だ。


 むしろ、見た上で判断するべきだ。


 カウントがゼロになる。


 画面が切り替わる。


「こんばんは。来てくれてありがと」


 いつもの声。


 いつもの笑顔。


 けれど。


 昨日までとは、見え方が違う。


 ただの“推し”ではなくなっている。


 その内側に、現実の人物――白石澪の影が重なって見える。


 コメント欄が流れる。


 挨拶。

 雑談。

 軽いボケ。


 配信は、いつも通りに進んでいく。


 ――表面上は。


 俺はキーボードに手を置いた。


 試すなら、ここだ。


 タイミングを見計らう。


 話題が一段落した瞬間。


『今日、放課後にグループワークやってた』


 送信。


 かなり具体的な内容。


 普通なら埋もれる。


 拾う理由はない。


 数秒。


 コメントが流れる。


 その中で。


 ルミナの動きが、わずかに止まった。


「あ」


 ほんの小さな反応。


 気づく人間は少ない。


 けれど、俺には分かる。


 ――拾った。


「グループワークかぁ。いいよね、なんか青春って感じで」


 自然な流れで返す。


 けれど。


 その“自然さ”が、逆に不自然だった。


 明らかに、特定のコメントを前提にした返し。


 そして。


「……ちゃんとやらないとダメだよ?」


 ほんの一瞬だけ、声のトーンが落ちる。


 優しさとも、釘を刺すようにも聞こえる言い方。


 まるで。


 “個人に向けて”言っているみたいな。


 コメント欄は盛り上がる。


 “青春いいな”、“俺もやりたい”、“宿題やれってことかw”。


 誰も違和感を持たない。


 当然だ。


 普通に見れば、ただの雑談の流れ。


 けれど。


 俺だけが、そこに引っかかる。


 ――やっぱり、見ている。


 俺のコメントを。


 それも、かなりの精度で。


 理由はひとつしかない。


 知っているからだ。


 俺が誰なのかを。


 *


 翌日。


 教室に入ると、水瀬陽菜が手を振ってきた。


「おはよ、神谷」


「おはよう」


「今日ちょっと眠そうじゃない?」


「いつもだろ」


「今日は特に」


 じっと顔を覗き込まれる。


「夜更かし?」


「まあな」


「ほんと好きだね夜」


「静かだからな」


「それは分かるけど」


 水瀬は少しだけ笑ってから、ふっと表情を変えた。


「でもさ」


「なんだ」


「最近、ちょっと楽しそうだよね」


 予想外の言葉だった。


「……そう見えるか?」


「うん」


 迷いなく頷く。


「なんか、前より余裕あるっていうか」


 そう言われて、少し考える。


 余裕。


 そんなものがあるとは思えない。


 むしろ逆だ。


 状況は複雑になっている。


 考えることも増えている。


 けれど。


「……どうだろうな」


 曖昧に返す。


 水瀬はそれ以上追及しなかった。


「まあいいや」


 軽く笑って、話題を変える。


「今日の放課後もやる?」


「グループワークか?」


「そうそう。昨日いい感じだったし」


「……いいんじゃないか」


「よし決まり」


 すぐに決定する。


 そのテンポの良さに、少しだけ救われる。


 ふと、視線を後ろに向ける。


 白石澪。


 今日も静かに席についている。


 けれど。


 昨日とは、ほんの少しだけ違う。


 視線。


 こちらを見ていた。


 ほんの一瞬。


 すぐに逸らされる。


 けれど、そのタイミングが妙に正確だった。


 ――意識している。


 お互いに。


 何も言わないまま。


 何も確定させないまま。


 ただ、距離だけが変わっていく。


 *


 その日の放課後。


 再び三人で机を寄せる。


 昨日よりも、少しだけ自然な配置。


「じゃあ今日は発表の内容まとめていこっか」


 水瀬が仕切る。


「構成はどうする?」


「最初にSNSの利点、次に問題点、最後にまとめ」


 俺が答える。


「いいね、分かりやすい」


 水瀬が頷く。


「白石さん、データ的なの入れられる?」


「……できる」


 短い返答。


 それで十分。


 作業は順調に進んでいく。


 無駄な会話は少ない。


 けれど、沈黙は重くない。


 昨日よりも、少しだけ空気が柔らかい。


 その中で。


 俺は一つ、確かめることにした。


「白石」


 名前を呼ぶ。


 わずかに驚いたように、視線が上がる。


「……なに」


「昨日の続きだけど」


 言葉を選ぶ。


「SNSって、発信する側と見る側、どっちが楽だと思う」


 一瞬の間。


 水瀬が「お?」という顔をする。


 白石は、ほんのわずかに視線を揺らした。


 それから。


「……どっちも、楽じゃない」


 静かに答える。


「発信する方は、ずっと見られてるし」


 続ける。


「見る方は、見てるだけなのに、影響受けるから」


 言葉が、正確すぎる。


 一般論としては正しい。


 けれど、その裏にある実感が、明らかに濃い。


「……経験あるみたいな言い方だな」


 軽く言う。


 ほんの少しだけ踏み込む。


 白石の指が、わずかに止まる。


 ほんの一瞬。


 それだけで十分だった。


「……ない」


 短く返す。


 昨日と同じ言葉。


 同じ否定。


 けれど。


 その“間”が、答えだった。


 俺はそれ以上追及しない。


 今は、ここまででいい。


 確定させる必要はない。


 もう、ほとんど分かっている。


 問題は。


 ――どうするかだ。


 その時。


 水瀬が何気なく言った。


「ねえ、今度さ」


「なんだ」


「三人でどっか行かない?」


 軽い提案。


 けれど。


 空気が、わずかに変わる。


「打ち上げみたいな感じでさ」


 笑いながら続ける。


「せっかく仲良くなってきたし」


 “仲良く”。


 その言葉が、少しだけ引っかかる。


 白石は何も言わない。


 ただ、ほんのわずかに視線を伏せた。


 俺は少しだけ考える。


 そして。


「……いいんじゃないか」


 そう答えていた。


 逃げるよりも、進んだ方がいい。


 そう思ったからだ。


 水瀬がぱっと顔を明るくする。


「ほんと? やった」


「白石さんは?」


 視線が向く。


 数秒の沈黙。


 やがて。


「……いい」


 小さく頷く。


 その瞬間。


 見えない何かが、一歩だけ前に進んだ気がした。


 距離が縮まる。


 関係が変わる。


 その先にあるものが、まだ分からないまま。










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