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推しのVtuberが同級生だったけど、元配信者の俺だけがその正体に気づいてしまった』 ~しかも向こうは俺の過去を知っているらしい~  作者: カルラ


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第5章 知られてはいけない相手

 配信は、いつも通り終わった。


 最後まで空気を崩さず、軽やかに締めて、笑顔で手を振って。

 “またね”の一言で、画面は暗転する。


 完璧だった。


 ――表面上は。


 ヘッドホンを外して、椅子にもたれる。


 静寂が戻ってくる。


 けれど、頭の中だけは妙に騒がしい。


 声。

 間。

 言葉の選び方。


 どれもが、昼間の白石澪と繋がる。


「……偶然でここまで重なるか?」


 自分に問いかける。


 答えは、出ているようなものだった。


 ただ、それを認めるには決定的な一手が足りない。


 証拠、と呼べるもの。


 今のままじゃ、ただの思い込みだ。


 ――確かめる必要がある。


 そう思った瞬間、スマホが震えた。


 通知。


 見慣れないアカウントからのダイレクトメッセージ。


 配信プラットフォームのものだ。


 眉をひそめながら開く。


 差出人の名前を見て、指が止まった。


 Astrea_Nox


 アストレア・ノクス。


 知っている名前だ。


 最近急激に伸びてきたVtuber。

 ルミナとは配信時間帯も被ることが多く、何かと比較される存在。


 ただの人気配信者の一人。


 ――それだけのはずだった。


 メッセージは短い。


『久しぶり、クロウ』


 視界が、一瞬だけ揺れた。


 その名前。


 もう誰にも呼ばれることはないと思っていた名前。


 指先が冷える。


 息が浅くなる。


 次の一文が、画面に続いている。


『まだ見てるんだね。そっち側から』


 喉の奥が、ひりつく。


 数秒、何もできなかった。


 やがて、ゆっくりと呼吸を整える。


 ――落ち着け。


 ただの可能性だ。


 名前が一致しただけかもしれない。


 そう思いながらも、分かっている。


 こんな偶然は、ほぼない。


 俺はキーボードに手を伸ばした。


『誰だ』


 短く返す。


 数秒も経たないうちに、既読がつく。


 そしてすぐに、返信。


『ひどいな。忘れたの?』


 その文面。


 軽い調子の裏に、わずかな余裕。


 昔、何度も見た“あの感じ”。


 確信に変わる。


 ――こいつは。


 知っている。


 俺のことを。


『……アリスか』


 打ち込む。


 少しだけ間を置いて、返事が来る。


『正解』


 短い肯定。


 それだけで十分だった。


 天城アリス。


 今はアストレア・ノクスとして活動しているVtuber。


 そして――


 俺が配信をしていた頃、何度かコラボした相手。


 互いにまだ無名で、手探りで配信をしていた時期。


 軽口を叩き合いながら、配信の空気を作っていた。


 そんな記憶が、断片的に蘇る。


『なんで今さら』


 打つ。


 返信はすぐだった。


『見つけたから』


 それだけ。


 けれど意味は十分すぎるほど分かる。


 ――観られていた。


 こちらが一方的に見ているつもりで、実際は違った。


『コメント、分かりやすいよ』


 続けて送られてくる。


『あの距離感、あの言葉選び。変わってない』


 思わず、苦笑が漏れた。


 皮肉なものだ。


 隠れているつもりで、全然隠れていない。


『で、なんの用だ』


 淡々と返す。


 雑談する気分じゃない。


 今知りたいのは、ひとつだけだ。


『単刀直入に聞くけど』


 少しだけ間が空く。


『ルミナのこと、気づいてる?』


 呼吸が、止まりかけた。


 やっぱり、そこに繋がる。


 頭の中で点が繋がる。


 確定だ。


 偶然でも、思い込みでもない。


 あいつは知っている。


 そして、確かめている。


 俺がどこまで理解しているかを。


『何の話だ』


 あえて、知らないふりをする。


 少しだけ沈黙。


 画面の向こうで、笑っている気配がした。


『そういうところも変わってないね』


 軽く流される。


『まあいいや』


 続く文章は、短かった。


『あの子、君のこと知ってるよ』


 その一文。


 背中に、じわりと冷たいものが走る。


『元配信者だってことも』


 視線が、自然と画面の隅に向く。


 さっきまで開いていたルミナの配信履歴。


 そこに映るサムネイルの笑顔が、どこか別のものに見えた。


『だから気をつけた方がいい』


 アリスのメッセージは続く。


『一番バレたくない相手に、バレかけてるかもしれないから』


 静かに、スマホを机に置いた。


 部屋の中は変わらない。


 いつも通りの、静かな空間。


 なのに。


 空気の密度が、明らかに変わっていた。


 ――見ているだけの関係じゃない。


 もう、その段階は終わっている。


 画面の向こう側と、現実が。


 ゆっくりと、確実に、交わり始めている。















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