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推しのVtuberが同級生だったけど、元配信者の俺だけがその正体に気づいてしまった』 ~しかも向こうは俺の過去を知っているらしい~  作者: カルラ


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第10章 踏み込む覚悟と壊れる前の距離

 夜。


 部屋の明かりだけが、静かに空間を照らしている。


 机の上には、何も変わらない日常の景色。

 けれど、その内側はまったく違っていた。


 白石澪。

 ルミナ・レイ。


 もう、切り離して考えることはできない。


 あの仕草。

 あの反応。

 そして、最後の問い。


 ――配信、見るの。


 あれはただの興味じゃない。


 確認だ。


 どこまで知っているのか。

 どこまで踏み込むのか。


 互いに探り合っている。


 そして。


「……そろそろ限界か」


 小さく呟く。


 このまま曖昧なまま続けるのは、難しい。


 どこかで決着をつける必要がある。


 問題は、その方法だ。


 正面から言うか。

 それとも、もう少し揺さぶるか。


 どちらにしても、リスクはある。


 けれど。


 ――何もしないのが一番まずい。


 そう結論づけて、俺はパソコンを開いた。


 *


 配信が始まる。


 いつものように、ルミナが画面に現れる。


「こんばんは。来てくれてありがと」


 変わらない笑顔。


 変わらない声。


 けれど。


 もう、それを“そのまま”受け取ることはできない。


 画面の向こうに、教室の風景が重なる。


 コメント欄が流れる。


 俺は、少しだけタイミングを待った。


 そして。


『今日、楽しかったな』


 送信する。


 シンプルな一文。


 だが。


 意味は明確だ。


 ――共有された出来事。


 普通のリスナーなら、言わない。


 いや、言えない。


 数秒。


 コメントが流れる。


 その中で。


 ルミナの笑顔が、ほんのわずかに止まった。


「……うん」


 小さく、頷く。


 その一言。


 誰に向けたものかは、明らかだった。


 コメント欄は気づかない。


 “なにが?”、“急にどうした?”、“楽しいのはいいこと”。


 雑多な反応が流れる。


 けれど。


 俺には分かる。


 ――届いている。


 そして。


「今日はね、ちょっと外に出てたの」


 ルミナが続ける。


「普段あんまり行かない場所に行って」


 言葉を選びながら話す。


「……悪くなかった」


 ほんの少しだけ、声が柔らかくなる。


 完全に一致する。


 さっきの時間と。


 空間と。


 感情と。


 もう、否定する余地はない。


 ――白石澪=ルミナ・レイ。


 確定だ。


 問題は。


 ここからどう動くか。


 俺は、次の一手を打つことにした。


『白石って名前、どう思う?』


 送信する。


 踏み込んだ。


 ほぼ直球。


 逃げ場はない。


 一瞬。


 時間が止まったように感じた。


 ルミナの視線が、画面越しにこちらを捉える。


 もちろん、実際にはそんなことはない。


 けれど。


 そう錯覚するほどの“間”。


「……え?」


 声が揺れる。


 明らかに、想定外の反応。


 コメント欄がざわつく。


 “急に名前?”、“どういう流れ?”、“誰の話?”。


 ルミナは、すぐに笑顔を作る。


 けれど。


 その笑顔は、ほんのわずかに固い。


「なんで急に名前の話?」


 軽く流そうとする。


 けれど、完全には戻らない。


 呼吸が、少しだけ浅い。


 視線が、わずかに泳ぐ。


 ――揺れている。


 確実に。


 俺はそれ以上追撃しない。


 ここで畳みかけるのは、逆効果だ。


 必要なのは、“余白”。


 考えさせる時間。


 逃げ場を与えないまま、決断を迫る。


 その方が効く。


 俺はそのまま黙る。


 コメントも打たない。


 ただ、画面を見続ける。


 ルミナは何とか話題を切り替える。


 ゲームの話。

 雑談。

 リスナーとのやり取り。


 いつもの流れに戻す。


 けれど。


 微妙に、リズムがずれている。


 ほんのわずかな違和感。


 それが消えない。


 ――壊れかけている。


 完全ではない。


 けれど、確実にヒビが入っている。


 配信が終わる。


「今日はありがと。またね」


 いつも通りの締め。


 けれど、その声にはわずかな疲れが混じっていた。


 画面が暗転する。


 静寂が戻る。


 その瞬間。


 スマホが震えた。


 通知。


 見慣れないアカウント。


 ――いや。


 もう、見慣れている。


 Astrea_Nox


 メッセージが表示される。


『やりすぎ』


 短い一言。


 思わず、息が漏れた。


『もう少し優しくしてあげなよ』


 続けて送られる。


 軽い口調。


 けれど。


 その裏にある意味は重い。


 俺は少しだけ考えてから、返信した。


『関係ないだろ』


 数秒後。


 すぐに既読がつく。


『あるよ』


 即答だった。


『あの子、本気だから』


 指が止まる。


 その一文。


 軽く流せる内容じゃない。


『何がだ』


 打ち込む。


 少しだけ間が空く。


 そして。


『君のこと』


 その言葉。


 画面に表示されたまま、動かない。


 呼吸が、浅くなる。


 冗談か。

 それとも。


 どちらにしても。


 状況は、さらに一段階進んだ。


 ただの推測や駆け引きじゃない。


 感情が絡んでいる。


 それも。


 かなり深いところで。


 俺はスマホを置く。


 天井を見上げる。


 ――踏み込みすぎたかもしれない。


 けれど。


 もう引き返せない。


 壊れるか。


 それとも。


 その先に進むか。


 選択の時は、すぐそこまで来ていた。













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