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戦闘神姫  作者: 柳井
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【3章】第12話 嵐の弓矢 風天雷

湖に現れたダンジョンを攻略する四人。

守護者を倒した後に現れた獅子王の三騎士の一人レグリオル

四人は成す術も無く、レグリオルの力の前に圧倒される。

そんな中、窮地を救おうとしたのが四人の一人、ローアだった。

「面白い。神の力を自ら取り入れるとは……」

「二人共、もう少しだけ耐えて。恐らく崩壊はもう少し……私が何とかする」

「待てよ……ローア。俺も戦う……」

腹を斬られたイッシンも、何とか気合いで立ち上がる。

だが、もうまともに戦う力は残っていない。

「イッシン、休んでて。レグリオル! 一騎打ちだ。私が三人を殺させない」

「ふふふ……女性のアプローチは受けなければいけませんね。宜しい! 崩壊までの時間で全員を守ってみなさい」

両者が向き合う。

弓使いと剣士。

間合いに入られれば弓使いが不利な状況だった。

先手を取ったのはローア。

だが取った行動は、後方へのバックステップだった。

「距離を取りますか。賢明です。ですが他の三人は直ぐに殺せますよ?」

「お前は攻撃しない。私との一騎打ちだもんね」

ローアはレグリオルの性格を見抜いていた。

気高く、嘘は付かない。

そして何より、騎士であることを。

「なるほど。では本気で貴女とお相手しましょう」

レグリオルはローアに向かって走り出す。

バックステップで距離を取るローアに、すぐに追いつく。

「直線的だね。狙いやすい」

ローアは距離を取ると同時に、レグリオルを誘っていた。

後方に下がりながらも放つ矢は、正確に脚を狙う。

「まずは機動力を奪うよ」

(これは……躱せませんね。仕方がない。能力を見せますか)

レグリオルの脚に放たれた矢は、不自然な動きで反れていく。

(正確に狙ったはず……! 何か不自然だった)

「貴女もここまでですかね」

一気に間合いを詰めたレグリオルが刀を縦に落とす。

しかし、ローアに刀が当たることは無かった。

「便利だね、戦闘姫の能力。武器の出し入れが自由だ」

「器用なものですね。弓使いのくせに剣まで使えるなんて」

「昔は前衛だったものでね。役に立ったよ」

しかし剣の腕はレグリオルに分がある。

受けた刀はゆっくりと押され出す。

『しっかりしなよ、ローア。あれだけの啖呵を切っておいて』

その時、ローアにフウとライの声が聞こえる。

(君達!? まだ消えてなかったの?)

『かろうじて魂はまだ消えてないようだね。それより僕達をしっかり使えてないようだね』

『仕方ないね。成ったばかりだもん』

(何を言ってるの? 今こんな状況で君達と話してる余裕なんか無いよ!)

『わかってないね、力の使い方。手本を見せてあげるよ』

瞬間、ローア自身に力が宿るのがわかった。

(これは……!?)

『君のお仲間と一緒さ。武器と身体能力だけじゃなく、自分自身に纏わせる事もできる。さぁ、わかったね。ここから反撃さ』

(なんだ……この娘。いきなり力が増した……?)

ローアは脚に風の力を纏わせる。

(私の力じゃ打ち返せない……けどこれなら)

剣圧が少し緩んだ、その瞬間。

ローアは思いきりバックステップで後ろに跳ぶ。

「何……!? この力。めちゃくちゃだよ!」

戦闘姫となったローアのバックステップは、一瞬にしてレグリオルとの距離を広げた。

そして――

「ぐっ……このタイミングで撃ってきましたか」

呆気に取られるレグリオルを、ローアは見逃さない。

「今度は当たった。それも、はっきりと」

一度目は不自然な動きで矢が外れた。

そして二度目は、しっかりと肩を射抜いた。

その時、大きな揺れがダンジョン全体を揺らした。

「何だ! 地震か!?」

「ダンジョンの崩壊が始まったのよ……」

大きな揺れの正体は、本格的なダンジョンの消滅。

ローアが神器を手にしたことにより、ダンジョンは崩れ始めていた。

「イッシン! マクちゃん! アヤカを連れて逃げる準備して!」

その時、ローアが大声で指示を出す。

「何言ってんだよ……お前だけ残るなんて」

ローアの指示に、イッシンは血を吐きながらも反対する。

「ごめんね。こんな事言ったら駄目かもしれないんだけど私……今、最高に燃えてるんだ」

ここに来てローアの中に、昔前衛だった頃の熱がよみがえる。

それを止める理由など、イッシンには無かった。

「わかった。先に外に出る。だけど約束してくれ。絶対に戻ってこい」

イッシンは言葉を残し、マクと共に走り出す。

「お別れの挨拶は済みましたか?」

「待っててくれてありがとう。じゃあ最後の勝負といきますか」

弓を構える。

レグリオルとの距離は充分。

勝負は一撃で決まる――

「最後にお願い聞いてよ。私の全力、受けてくんない?」

「ふふ。いいでしょう。貴女の全力を、私の全力が断ち切りましょう」

レグリオルは刀を構えるだけ。

ローアの攻撃を、あえて受ける選択を取った。

「いいの? 死ぬかもよ?」

女性レディの本気の攻撃を受け切る。騎士の名の下に……そう思っただけですよ」

「それじゃあ有り難く。ここから脱出させてもらうよ」

(いくよ。フウ、ライ。思い切り力を貸して)

「いくよ……レグリオル。風よ……纏え」

弓を構え、ローアの矢に風の力が纏いだす。

「便利な能力だ。空気を力にしているとは」

(全力の矢を打ち落とし、彼女を殺す)

レグリオルはカウンターの構えを取る。

「神風の矢」

放たれるローアの一撃。

その一本の矢に纏う風は、まるで災害級の暴風だった。

「風圧がまさに台風ですね。ですが……剣は振れる」

普通なら中距離で弓矢を撃たされた時点で避けるのは不可能。

だが今回はタイミングも分かっている。レグリオルにとって、矢を落とすことなど容易かった。

そして……ローアの力を込めた矢は無慈悲にも真っ二つに斬られる。

「貴女の渾身の一撃も、不意を突かなければ意味がない。では私の攻撃の番ですね」

振り下ろした刀をローアへ向ける。

「私の番はまだ終わってないよ!」

(まさか……一発目の溜めは囮……! 攻撃されないと踏んでいて、敢えて目眩ましに使ったのか!?)

【神器 風天雷ふうてんらい

二つの属性を併せ持つ弓矢。

空気の力を借りて弓を生成するため、基本的に矢の装填が不要。

攻撃は風の力を纏うと同時に、雷の力を蓄積しながら戦う。

雷の矢は風の矢と違い、攻撃性能が段違いに上がる。

「チャージしないと使えない技だから、敢えて誘わせてもらったよ。お陰で最高のタイミングで撃てる。私の二の矢……雷撃サンダーボルトアロー

(私を一騎打ちに誘うのも、全力の攻撃も、全てが雷の矢の布石……)

「見事っ……!」

ニヤリと笑うレグリオルに、ローアの一撃が正面から突き刺さる。

直撃と同時、激しく砂煙が舞う。

「体に埋め込んだだけあって、体力の消費が物凄いんだね。アヤカはこの状態で戦っていたの……」

通常、神器使いも能力を使用すれば体力を消費する。

だが戦闘姫は体内に神器を取り込み、自身の体力を大幅に削ることで、従来の性能を超える力を出せる。

「この技なら大抵の守護者辺りは即死でしょうね」

「嘘……でしょ?」

煙が晴れたと同時、聞き覚えのある声と共に姿を現したのは無傷のレグリオルだった。

「私がここまで能力を使わされるとは思ってもいませんでした」

ローアは無傷のレグリオルを見て絶望した。

同時に、蓄積された疲労が一気に押し寄せる。

(ここにきて体力が……もう……限界だ)

「貴女の勝ちです」

しかし、死の一歩手前のローアに告げられたのは意外な言葉だった。

「何……どういうこと?」

「その言葉通りですよ。貴女は三人を外へ逃がし切り、ダンジョン崩壊まで耐えきった。私はそんな貴女にに“今”は負けました。ですからここは退きます」

「待って……! 外の三人には手を出させない……!」

限界のローアは最後にレグリオルの前へ立ち塞がる。

「私を何だと思っているのですか。外の三人にも手は出しませんよ。それに今回はお遊びに来ただけです。最も、次に万全の状態で会う時は……」

レグリオルは言葉を残し、天井へ向けて高く跳ぶ。

「崩壊しかけのダンジョンを破壊することなど容易い」

天井へ刀を振り抜く。

するとその一撃で天井に大きな穴が穿たれる。

「私は崩壊して変な所へ飛ばされたくないので失礼する。運が良ければ何処かでお会いしましょう」

「二度と会いたくないよ」

ダンジョンが崩壊する時、内部に入った冒険者を何処かへ飛ばすという危険がある。

それを回避するには完全に脱出するしか無い。

「駄目だ……。意識が遠のいていく。最後のレグリオルに喰らった石礫が効いたなぁ……。リン。私も多分そっちにいくわ」

ーーー

ダンジョン外。

脱出した三人はローアの帰りを待っていた。

「やっぱりローアを連れてくるべきだったか……」

「今からでも遅くねぇ! ローアを救出するべきだ」

「待ちなさい!」

イッシンとマクの会話に、アヤカが怒号を上げる。

「アヤカ……ローアを見捨てるっていうのか」

「勘違いしないで……私は今腹が立っている。ローアが一人で私達を逃がしたことにも、あんた達を守れなかった弱さにも……」

最初のクラーケン戦からアヤカは全力を出した。

分かれた試練でも、テンペスタ戦でも、アヤカは最前線で戦った。

「クソっ……」

(アヤカ……悔しいのは俺もだ。俺こそ何も出来なかった。情けねぇよ)

その時、大きな揺れと同時に、ダンジョンの上側から大きな音と共にレグリオルが姿を現した。

「まさか……ローア……」

「クソっ! 今からでもアタシがやってやるよ!」

「今回は私の負けです。次に会う時を私は楽しみにしております」

「どういう事だ! ローアは……無事なのか!?」

「あの女性は私に勝ったのです。最も、このダンジョンの崩壊で何処に飛ばされるか私にも分かりませんがね。運が良ければ生きて会えるでしょう。ではまた会いましょう。獅子王の息子とその仲間達よ」

レグリオルは三人の前から姿を消した。

大きな揺れは続く。

「おい! 橋の外へ逃げるぞ!」

そしてダンジョンも姿を消した。

汚れきった湖も少しずつ綺麗になっていく。

「ダンジョンの崩壊で内部にいた奴は何処かへ飛ばされるんだよな……」

イッシンはアヤカに尋ねる。

「えぇ。ただ実際は逃げ遅れた人が飛ばされてるから、本当かどうか私も分からないわ」

「探そう。何処までも。飛ばされた先でローアは死にかけている。ローアが死んだら俺達が生きた意味がねぇ。ローアも助けて全員で帰るんだ」

「おい……あれ何だよ」

突如、光の柱が三人の前に現れる。

ーー

「リン……私もそっちにいくよ」

ダンジョン内部では本格的に崩壊が始まっていた。

「皆の時には守れなかったけど、強敵相手に私、三人も守ったんだよ……。凄いでしょ」

神器を強制的に取り入れた反動は凄まじかった。

そして遂にローアの意識が飛びかける。

(あぁ。崩壊だ。せめていい所に飛んでほしいなぁ。まぁ生きてるか分からないけど……)

『ローア。まだ死んじゃだめよ』

(懐かしい声。これが死ぬ前兆なのかな?)

ローアが耳にした声はリンの声だった。

『諦めるなんてお前らしくねぇぞ』

『仲間の所に戻るんだろ?』

(シュートやサンまで……どうしたんだろ。あの時のメンバーの声が聞こえるよ)

以前ローアが組んでいたパーティー。

ローア以外はダンジョンで全員死んでしまった。

『ローア。貴女はまだ生きなきゃいけない。大事な仲間達が待っているんだから』

(皆も大事な仲間だよ。そっちにいくよ)

ローアは手を伸ばす。

しかしリンはその手を払った。

『私達はもういない。でも貴女が生き続ける限り、心の中に私達も生き続けられる。さぁ、皆が待ってる。私達がそこまで送ってあげるわ』

ーー

「おい……なんだこの光は!」

三人の前に現れた光の柱。

その光が消えた時、三人の知る人物が現れた。

「ローア……! 無事に戻ってきてくれたんだ」

「何よ……イッシン。子供の頃から泣き虫は変わらないんだね」

ローアがダンジョンの崩壊で飛ばされた先は、三人のいる場所だった。

「奇跡よ……。おかえりローア」

「心配したんだからな……畜生、アタシも涙が出てきた」

「ただいま……皆」

(リン達が私を助けてくれたのかな? 有難う)

四人を見つめる三体の魂。

『いいの? あんな事して』

『いいんだよ。あのコの過去も知ってたし、それに……』

ローアが見たリン達の正体は、ライの能力だった。

『有難う。精霊さん』

『この魂がそうしてって頼むんだもん』

『何にせよここからが大変だよ』

『何とかなるよ。あの子達なら』

『うん。信じよう。争いが無くなる世界に』

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