【3章】戦闘神姫 第9話 激突!天雷神竜テンペスタ②極限の精神力 心眼穿矢
テンペスタのもう一つの大技。
口から放たれる光線がまだ残っていた。
『終わりだ小僧!!』
全速力で走るイッシン目掛け、光線が放たれる。
(回避は間に合う。だが避ければこのスピードは失う。皆が作ってくれたチャンスを無駄に……)
「いいスピードね。これなら青柳流の空蝉が活きるわ。」
その時、ある言葉を思い出した。
それはカグラの姉、レイカとの特訓の日々だった。
「空蝉は高速の抜けを利用して相手の攻撃を躱す技。いわば瞬発力なのよね。だから完全に消えたわけじゃない。ただ相手から意識を削ぐだけ。だけど、その一瞬、意識を削ぐことができれば――」
レイカはおもむろに目の前の木を斬った。
「私なら敵を斬れる。」
「よし、それなら俺はもっと速さを磨くぞ」
イッシンは走り出す。
その姿はまるで疾風のように鋭く素早い。
「いいスピードね。その瞬発力があれば、空蝉は更に“上”に行けるわ。」
「上……か。やってみるか。」
「イッシン!避けなさい!」
アヤカが大きな声で叫ぶ。
だが、光線は無慈悲にもイッシンを捉えた。
光線が撃ち終わった後、そこにイッシンの姿は無かった。
『消し炭になって死んだか。人間は脆いな』
「悪いな、人間はしぶといんだよ」
どこからかイッシンの声が聞こえる。
「嘘……。完全に消えてたわよアイツ」
「空蝉を進化させた俺だけの技。飛蝉!」
イッシンは普段から山籠りの修行を重ねていた。
その結果、自分でも気付かぬうちに足腰に凄まじい筋力が備わっていた。
空蝉は脱力からの抜けを利用するカウンター技。
飛蝉はその脚力を利用し、上空へ飛び抜ける空蝉とは真逆の発想で生み出された技だった。
「ぶち込むぜ!」
テンペスタの頭上に、イッシンは刀を突き立てる。
『うおおおおお!その刀を抜けえええ!!』
イッシンは刀を刺したまま頭上を駆ける。
そして、カキンという音が響いた。
「これが……核か。トドメだ」
イッシンが刀を振り下ろそうとした、その時だった。
『まだ我は負けぬ。風よ我に纏え』
核を中心に風が纏わりつく。
その風に弾かれ、イッシンは振り落とされてしまった。
「そんな……あと一歩だったのに」
「しかもあの風はアイツの防御形態ってところかしら。私でも無理だわ」
テンペスタに纏う風。
その風と空中に浮かぶ力によって、テンペスタは付けられた傷を修復していく。
『この形態まで出させるとは。核の場所は治りが遅い。このまま回復に専念させてもらおう』
「打つ手無しか……」
「私に命を預けてくれないかな?」
その時、ローアが名乗りを上げる。
「無理だぜ。俺が軽く吹っ飛ばされるくらいだ。弓なんかが届くはずが無い」
「イッシン。諦めるの?私はこのチャンスを逃さないわ」
「私はアンタに賭けるわ。ローア、アンタにしかあの核は潰せないわ」
「どういう事だ?」
アヤカはローアに希望を託していた。
「アンタの目には見えているのね。風の中心が」
「うん。確かにあの風は厄介で全てを弾き返すと思う。でも、確かに見える。そして風の変わり目――そこだけは無風だよ。」
「なら俺も命を預けるぜ。何をすればいいんだ?ローア」
「アイツの意識を一瞬でもいいから逸らして。その一瞬で私は核を貫く」
テンペスタの修復は思っていた以上に速い。
「グッ……なんだこの痛みは」
初めて使った飛蝉には大きなデメリットがあった。
跳躍のために踏み込んだ力は、イッシンの脚に大きな負担を掛けていた。
「最後は私に任せなさい。ローアは集中してなさい。」
「わかった。アヤカちゃん。できれば――」
ローアは最後にアヤカと打ち合わせをする。
「わかったわ。絶対決めなさいよ」
そしてアヤカはテンペスタの元へと走り出す。
『ふん。あの力が無いならお前も小僧と変わらぬ。風の力の前では無力』
「鬼哭纏……私にならできる。宿せ、刀に」
鬼哭纏は本来、自身のピンチによって発動する呪いのドーピング。
それはデメリットも大きい。
だが、今回アヤカが発動したのは自身に纏わせるのではなく、神器火王鬼哭自体に纏わせる方法だった。
これによりアヤカは自分の体に負担を掛けず、刀の能力だけを底上げすることを可能にした。
「炎よ、竜を焼き払え!」
アヤカはテンペスタに炎を放つ。
だがテンペスタには炎は届かず、流される。
『無駄だと言っている。確かに炎の威力は絶大だが相性が悪い。お前達には勝てぬ』
重傷のアヤカの炎はなおも絶大だった。
それを受け流した結果、フィールドには火が回る。
『見ろ!お前のせいで他の仲間まで殺す事になった。我が手を下す事すら無くお前等は死ぬのだ』
辺りは火に包まれ、人が立ち続ける事すら困難なほどの熱を帯びていた。
「確かに、私の力じゃ今のアンタに勝てない……。でもそれを支える仲間がいる。だから私は皆を信じる」
『信じるだと?この炎の戦場にしたのはお前だろ。笑わせるな。殺したのは貴様だ』
アヤカとテンペスタの会話が途切れる。
そして核の部分の修復が完了する、その時。
テンペスタの表情が僅かに緩む。
「やっと見せたね。」
燃え盛る戦場で放たれる一本の矢。
普通の人間なら意識を失うほど酸素は薄い。
だが極限まで集中したローアは、空気の中心である無風の一点を正確に狙っていた。
「心眼穿矢。これが私の必殺」
極限まで追い詰められた状態でローアは覚醒する
そしてその矢は、核の中心を完璧に貫く。
『馬鹿な……この炎の中で、しかも完璧に捉えるだと』
「終わりよ、テンペスタ」
核を貫いた瞬間、暴風壁は崩れ落ちる。
一瞬の隙を逃さず、アヤカは核を完全に砕いた。
「この戦い……私達の勝ちね。」
そして四人は、守護者テンペスタに勝利した。
ーー
テンペスタの核が破壊された少し後。
「さて、力が弱まりましたか。ではそろそろ行きますか」
外で待っていたレグリオルは、ダンジョン内部へと足を踏み入れた。
ダンジョン内部の戦いは、まだ終わりではなかった。




