【3章】戦闘神姫 第10話 三騎士のレグリオル
ダンジョンが火の海に包まれる中、四人は守護者に打ち勝った。
「よくやったわね、ローア」
「うん。皆が協力してくれたお陰だよ。特にイッシンの“コレ”が助かった」
火の海の中でも集中できた理由は、イッシンの持つとある武器によるものだった。
「これは俺が初めてダンジョンから持ってきた武器さ」
イッシンが手に持つのは小刀。
それは以前、パラットと攻略したダンジョンにて炎の蜥蜴から入手した武器――炎蜥蜴剣だった。
「特殊武器だから何かしら役に立つと思って持ってきた。そしてコイツは炎を吸収することができる」
イッシンはローアの周りの炎をこの剣で吸収していた。
それによりローアは火を気にせず集中することができた。
「それでもこの火の海だ。この状況で風の中心を射抜く精神力は流石だぜ」
『見事であった』
その時、核を砕いたテンペスタが言葉を発した。
「まだ終わりじゃなかったのか!?」
四人は直ぐ様、戦闘態勢を取った。
『安心しろ。もう貴様等を攻撃しない』
テンペスタが輝き出す。
そしてその体から二つの影が姿を現した。
『いやぁ、やるねぇ。君達』
『まさか僕達の作品を攻略するなんて』
「何だ……お前達?」
現れたのは二人の精霊。それはテンペスタと違い、話し方も穏やかだった。
『僕達は見ての通り精霊さ』
『フウ、まずは自己紹介しようよ。僕の名前はライ。もう一人はフウ。僕達は武器に宿りし精霊。そして神の力を宿す神器さ』
ライが語った内容は衝撃的だった。
「お前達が神器なのか?」
『僕達はここを攻略する者達を待っていた。そして出会った。君達にね』
『強いだけじゃ駄目。正しく力を使える人達にね』
「正しく力を使える人……?それってどういう事……」
イッシンが問いかけた、その時だった。
ダンジョンを大きな揺れが遮る。
『フウ、マズいよ。誰か侵入しようとしている!それも強大な力が』
『ここまでか……最後に聞いてくれ。今、この世界は大きな争いが起ころうとしている。神器を使った大きな戦が……歴史は繰り返――』
大きな揺れが収まった時には、フウとライは消えていた。
足元にはテンペスタの体だけが残っていた。
「ソウルウェポンや神器には魂が宿るって聞くけど、実態を見たのは初めてだわ」
(私の火王鬼哭も、あんな感じなのかな)
「大きな争い……フウとライはそう言った。それに、歴史は繰り返すって言いたかったのかな?」
「それに誰かが侵入しようとしてるって言ってた。早く武器を回収して逃げるわよ」
「――それは困る」
一人の男が、守護者の間へと辿り着く。
「誰!?」
「人に尋ねる時は、まず自分からですよ。まぁ女性なので今回は私からご挨拶させていただきます」
「私は獅子王の三騎士の一人、レグリオルと申します。以後お見知りおきを」
「アンタ、宝だけ狙いに来たの?」
アヤカは殺気を向ける。
それはテンペスタに向けた圧とは別種の、本能が告げる危険への圧だった。
「私はそんな卑しい真似はしませんよ。貴方達がホンモノか確かめに来ました」
「アヤカ……気をつけろ。おそらく俺とパラットちゃんが以前戦った奴の仲間だ。その時はギリギリ勝てたけど、今は四人とも負傷している」
「四人の連携ならヤれるよ。それにダンジョンももうすぐ消える。何とかもつ」
マクが瓦礫の礫を拾い、投げつける。
だが奇妙なことに、礫は当たる前に弾け飛ぶ。
「おやおや。荒っぽいですね」
「何だ?今のは……瓦礫が爆ぜたぞ」
「剣士ではない貴女にはご退場願います」
レグリオルの圧が変わる。
先程までの余裕ある空気とは違う。明確な殺気がマクへ向けられる。
一瞬だった――
マクに視線を向けた次の瞬間、レグリオルはマクの腕を斬り落としていた。
「ぐああああ!」
悲鳴と共に、マクの腕が無残にも床へと落ちる。
(訓練で片腕を落とされたけど、痛みがちげぇ……これが本当の死線か……)
「ほぅ。流石獣人ですね。まだ息があるとは」
レグリオルが抜いたのは長剣。
その剣に付いたマクの血を払い、再び剣先を向ける。
「邪魔をするなら次は命を頂く。もっとも、私が駄目だと判断した時には全員死んでもらいますがね」
この男は本当に殺す。
マクへの攻撃を見て、それだけはハッキリと理解できた。
「アヤカ、いけるか?」
「誰に言ってんのよ。そっちこそ全力を出し切りなさい。ローアは下がって援護に回って」
「わかった」
ローアが後方へ下がった、その瞬間だった。
「剣士以外の戦闘者は、女性であろうが退場願いたい」
レグリオルはマクの投げた礫を拾い上げ、一瞬でローアへ投げ返す。
「――っ!」
その礫はローアの足を切り裂いた。
余りの激痛に、ローアは気を失う。
「ローア!」
「安心して下さい。殺しはしません。さて、思う存分来なさい」
(アヤカの傷は深い。俺はまだ動ける……俺がダンジョン崩壊まで耐える)
「行くぞ!レグリオル!」
イッシンはスタートを切る。
「イッシン!突っ込んじゃ駄目よ!!」
「戦闘面においては未熟ですね」
イッシンは理解していた。
以前、自分が薙刀を使ったことがある。そして長物の武器の特性も、武器の扱いが得意なイッシンの頭の中には想定済みだった。
(カウンターなら空蝉で対応できる。だけど間合いが広い相手なら……“前”に飛べ!)
「獅子王とアルギエラが認めた男かと思いましたが、期待外れですね。ここで殺しますか」
レグリオルが刀を横に振る直前、イッシンは飛蝉を発動する。
だがテンペスタ戦で見せた跳躍とは違い、今度はレグリオルへ向かって距離を詰めた。
「長物の間合いを知っていたのですか……!」
「生憎、色んな武器をマスターしたんでね。武器の扱いなら将軍級だよ!」
一瞬で詰め寄られたレグリオルに、イッシンが太刀を振るう。
しかし――
イッシンの刀の剣速が落ちる。
「なんだ!?何が俺の攻撃を阻むかのように重い……!」
「今のは良い攻撃でした。だが、まだ甘い……」
レグリオルの返しの一撃。
それはイッシンの体を浅くだが切り裂いた。
「ほぅ……すさまじい脚力ですね」
「あぁ。子供の頃から鍛錬だけは欠かせなかったからな」
イッシンは返しの一撃を前に一歩、バックステップで距離を取っていた。
その結果、刀の剣先だけが体を切り裂くに留まった。
「大丈夫?イッシン」
「あぁ。咄嗟に後ろへ下がったから致命傷は避けた。それにアイツに攻撃した時、何かが邪魔をして攻撃が届かねぇ」
「二度目の鬼哭纏を使うわ……」
実際は三度目の使用。
一度目は自身に、二度目は刀に、そして三度目――また自身の体に呪いを掛ける。
だが、アヤカも二度目以上の鬼哭纏は試したことが無い。
「無茶言うなよ!一回でも身体はボロボロなんだろ!」
「仕方ないじゃない。ここで全員死ぬくらいなら、試すほうがマシよ」
「全員で生き残るんだろ!?お前だけがハズレくじを引く必要なんかねぇんだよ!」
全員で生き残る。
それは四人でダンジョンの中で決めた事だった。
「イッシン……力をくれない?」
アヤカがイッシンに手を差し出す。
「何すればいいんだよ?」
「察しが悪いわね……!」
アヤカが強引にイッシンの手を握る。
「アンタの勇気……貰ったわ」
そしてアヤカはレグリオルへと走り出す。
「炎気一閃」
炎を纏う刀身。
アヤカは技を出す気力すら残っていない。
しかし振るった刀は、一番の強さを見せる。
(確かにイッシンの言った通り重くて剣が先に進まない……でも)
「ほぅ……!剣圧は少年よりも鋭い!貴女は相当な鍛錬を積んできたのがわかります……」
レグリオルを纏う“何か”。
それがアヤカの攻撃を遮る。
(答えて……火王。私は守りたい……!皆を)
その時、アヤカの体が一瞬光る――。
そしてアヤカが振るった刀は、更なる力を発揮する。
「力が湧いてくる……これなら!」
アヤカの刀が纏った炎。それはいつもの炎を凌駕する
反撃の構えを取ったレグリオルは咄嗟に防御の構えを取る。
だが、アヤカの刀が僅かに速い。
そしてアヤカの刀は、レグリオルを捉えた。
「何ですか……!その力は」
余裕の表情を浮かべていたレグリオルに、初めて焦りが見える。
「私にも分からない……でも火王が答えてくれた」
「すげぇよアヤカ……」
(やっぱりアヤカには敵わねぇな)
「ふふふ。面白い……!これほどワクワクする事なんて久しぶりです」
(アルギエラよ……貴方の思い。私が引き継ぎましょう)
レグリオルの圧が跳ね上がる――。
「何だよ……アルギエラと戦った時より圧がやべぇ。三騎士でも力の差があるのか……!」
「私達、三騎士は三人で一つ。誰かが死ねばその能力は二人に受け継がれる。だから誰が一番と言う事は無いのですよ。さぁ終幕だ。ここで消して差し上げましょう」
「ここまでか……」
ーー
「気を失ってた……皆は!?」
目を覚ました場所は、まだダンジョンの中だった。
そしてローアは、驚愕の光景を目の当たりにする。
「皆……!」
それは倒れるイッシンとアヤカの姿。
そしてマクが立ち上がり、レグリオルへと特攻する姿だった。
だが、無謀な特攻だった。
マクはあっさりと斬られてしまう。
「手負いで無ければまだ楽しめましたか。殺すつもりは無かったのですが。興が乗ってしまいました」
倒れる三人。
だがローアは一つの希望を感じる。
(三人とも心臓は動いている。これなら崩壊に間に合う)
「まだ息がありますね……」
レグリオルはその希望を消しにかかる。
「誰から殺すか……当然、私に一撃をくれた貴女からですね」
レグリオルはゆっくりとアヤカへ近づく。
圧倒的な強さを、四人は見せつけられたのであった。




