23話 学園祭8
確かに僕はあいちゃんと先輩後輩という間柄で仲良くさせていただいてはいるが、『あいちゃんを愛でようの会』の一会員に過ぎない僕がデートなんてしようものなら他の70億人のファンの方々に叩かれてしまうかもしれない。
僕が集中放火される分には良いのだが、あいちゃんにまで被害が及んでしまうのは避けなければならない。事前に防げるスキャンダルならば対策するべきだろう。あいちゃんには悪いが蘭童殿がいる時に改めてーー
「あの、やっぱり2人だと嫌でしょうか……?」
「何を仰っているのやら! 世迷言も甚だしい限りですぞ!」
なんかいろいろ難しいことを考えていた気がするが、そんな前提をぶん投げてほぼ反射的に応対してしまう僕。ファンとしては推しに暗い表情をさせてしまうのが何よりのタブーなのである。焦ってしまったせいで言語がややタイムスリップしてしまったが。
……集中放火? 知らね、バズーカでも大砲でも何でも来いや! 天使の笑顔が1番大事なんじゃ!
「えっと、ホントにいいんですか?」
「まったく問題無しだ。蘭童殿が来られなくて悔しがるくらい謳歌しよう!」
「は、はい!」
そうして生まれるあいちゃんのファンサという名の笑顔。こうして世界は平和に包まれた、ノーベルさんは早くあいちゃんに賞をあげてください。
「あいちゃんは回ってみたいところはあるか?」
「回ってみたいところ……」
「お昼だし2年CないしDクラスのカフェに行ってみるのもありだが」
「そ、それはちょっとハードルが高い気が!」
「ハードル? ああ、この時間だと既に順番待ちが発生してそうだな」
方やハレハレの片翼が行うアニマルカフェ、方やハレハレの片翼が行う和装カフェ。フロアに行かずとも大盛況なのが想像できるから恐ろしい。
「……そういう意味ではなかったんですが」
「それなら普通に食堂に行ってみるか? 3年生が自由登校な分空いてるかもしれない」
「そうですね! 食堂なら先輩後輩って感じで、いいと思います!」
あいちゃんの言い回しが若干気になったが同意はしてくれているようなので目的地は食堂に決定。漫才のネタにもさせてもらったように限定メニューも出ているわけだし、早速学園祭らしさを味わせてもらおう。
僕とあいちゃんは道中1年生の出し物を横目で見ながら食堂へ向かうのであった。
ー*ー
「おお……」
「盛況ですね……」
食堂に入ると、普段と変わらない混雑した様子が見てとれた。制服7割私服3割と流石に生徒だけで埋まっているわけではないようだが、見通しが甘かったと言わざるを得ない。
どうやら今日明日は売店を休業しているらしい、惣菜パンやおにぎりで済ませていた連中が流れていったと思えば納得しかなかった。
「廣瀬先輩! あそこが空きそうです!」
「ナイスだあいちゃん」
ちょうど食事終えたらしい2人組と入れ替わるように席を確保。僕のブレザーを置いて学園祭限定のメニュー表を見る。
「海鮮丼2,500円!?」
「すき焼き定食も1,980円ですよ!」
とても学生に提供するとは思えない強気な値段設定に怯む僕とあいちゃん。そりゃ目を引くような立派なものを作るならお値段にも直結するんだろうが、もう少し手心を加えていただいてもよろしいのではなくて?
「あっ、でも2品とも既に完売みたいですね」
「……どういうこっちゃねん」
10食限定とはいえ、これらを購入した猛者たちが存在するとは。もしや生徒たちの親御さんに財力の差を見せつけられたということなのだろうか。学校は社会経験の場とはよく言うが、ベクトルが違いすぎる気がする。社会人の容赦なさなど知りとうなかった。
「ちなみにあいちゃんは売ってたらどっちか買ってた感じ?」
「そんなまさか! 私のような庶民には焼きそばがお似合いです」
「よかった、僕も同じだ」
僕とあいちゃんは笑い合った。若干焼きそばに失礼に気もしなくはないが、今から消費するので許してください。
「廣瀬先輩、奢ってもらうわけには」
「気にするな、今日付き合ってくれた礼だ」
あいちゃんの分の焼きそばを購入して配膳列へと並ぶ。学園祭ということで父さんからはそれなりにお小遣いをもらっている。あいちゃんに奢るのなんて何ら問題ない。
「よし、早速食すか!」
「いただきます!」
トレイに載って出てきた一見普通の焼きそば。キャベツに豚肉、細切りの玉ねぎやにんじんを特製ソースで麺と一緒に絡ませており、青のりと鰹節が見栄え含めて美味しそうにトッピングされている。紅生姜やマヨネーズはお好みとのことだったが、僕は紅生姜だけ添えさせてもらった。あいちゃんは逆にマヨネーズだけ追加したようだ。
席に戻って手を合わせてから焼きそばを口に入れる。各々の食感と味がソースと合わさって味覚を刺激してくる。わざわざ学園祭で出すだけのことはある、庶民の食べ物扱いをして本当に悪かった。
「美味いな」
「はい! すっごく美味しいです!」
あいちゃんも満足しているようで、手のスピードが止まらない。時折咀嚼しながらご満悦に頬を触っているのが可愛らしかった。
今更ながら、食堂もこの学園祭を支えてくれているのだと自覚した。去年は自クラス以外の学園祭に参加している余裕がなかったからな。
「あいちゃんは、この後学園祭はどうするんだ?」
食事を進めながら、あいちゃんに質問を投げる。自分のようにバタバタして学園祭を楽しめないなんてことはないだろうが、念のためだ。
「えっと、午後からは茶道部の1年生で学園祭を回るんです。15時からはクラス出し物の当番なので今日はそれで終わりですかね、どこかで空ちゃんとは会いたいですが」
あいちゃんの予定が充実してそうでホッとする。佐伯少年の影がチラつくのが気になるが、女子の前ではギリギリ紳士だし問題はあるまい。
「ひ、廣瀬先輩のご予定はどうなんですか?」
僕に訊かれたことをそのまま返答してくるあいちゃん。どこか落ち着きなく見えるが、この程度の質問なんて気軽に聞いてくれれば良いのに。
「今日は晴華と回ってその後は朱里と回る感じだな」
「女性と2人で回られるんですね」
「友達だしな、男子がいないのは単純に僕の交友関係が問題だ」
雨竜は生徒会活動で動き回ってるし翔輝には涼岡希歩を優先してほしい。豪林寺先輩はそもそも学園祭には来られないらしいし、女子たちの交流が主となるのは男女比的にも分かり切っている。佐伯少年はもう戯れたしいいだろ。
「わ、私、もう少し気を遣わなきゃいけないのかと思ってました」
「どういうことだ?」
「廣瀬先輩、女の子に人気があるから……」
「あー」
あいちゃんがやけに行く場所や人目を気にして見えたのはそういう事情があったからか。
確かに僕に好意を向けている相手からすれば面白くない光景ではあるだろうが、現段階で文句を言われる筋合いはない。
そう、現段階では。
「あいちゃんが言うように、学園祭が終わったらある程度は気にしなくちゃいけないな」
「ーーあっ」
友人とはいえ、覚悟を決めたなら引くべき線が存在する。今までと同じというわけにはいかないだろう。
「そっか、廣瀬先輩はもう、決めてるんだ……」
あいちゃんの声は小さく、僕の耳には届かなかった。あいちゃんも僕に向けて言ったわけではないと思われる。
寂しそうな辛そうな表情を浮かべているが、何故だか僕から声をかけてはいけない気がした。
「ーー廣瀬先輩」
お互いに食事を済ませると、あいちゃんは姿勢を正してこちらを見る。
先程までとは打って変わって、表情は明るかった。
「また私と遊んでくれますか? 勿論空ちゃんも一緒に」
「……それなら断る理由がないな」
改まった言い方に一瞬固まったが、すぐに前向きな言葉を返した。
可愛い後輩の頼みを聞いてやるのは先輩としては当然だ。
「やった……!」
今度の小声は僕の耳にも届いてきた。まったく、喜びを隠せていないところがホントに可愛らしいと思うよ。
こうして後輩との楽しい時間は、あっという間に終わるのであった。




