24話 学園祭9
食事を終えた後、そのまま食堂で会話をしてからあいちゃんとは解散した。
どこか回らなくていいのか聞いてみたのだが、彼女的には食堂でお喋りしてる方が楽しいらしい。
とはいえこれがあいちゃんの気遣いというのは分かる、今いろんなところを回るとクラス出し物の新鮮味が薄れるからな。せっかくだ、晴華や朱里と回るときにはしっかり楽しめるようにしよう。
あいちゃんがなんとなく元気がなくなったように見えたのは、念の為蘭童殿に報告しておくか。僕の考えすぎならそれに越したことはないのだが。
食堂のある建物から校舎へ移動していると、それなりに私服の方々とすれ違う。
今日は生徒関係者しか入れない日程だが、それにしても人が多すぎる気がする。
関係者用のチケットは1人4枚配られ、希望者には追加で2枚まで配られる。仮に1年と2年の生徒のチケット2枚分が消費されたとして、960人が今日学校に来ることになる。
うん、そりゃこれくらいごちゃごちゃするか。一般参加も可能な明日のことなんて考えるだけで恐ろしい、警備員さん頑張ってください。
改めて去年の学園祭への参加の仕方が偏っていたと思い起こしながら我が学年のフロアへ戻ってくる。
1年クラスと違って人が多いのは気のせいではないだろう、元凶たちのいるカフェが盛況なのは廊下からでも分かるし。
……というかこれから元凶その1と会うわけだが、時間なんて取れるのだろうか。今更ながら、こんな人が集中する時間に予定を入れたことが申し訳なくなってきた。
「廣瀬君!」
CクラスとDクラスの列を見ながらどうしようか考えていると、先程まで一緒に漫才を盛り上げてくれていた翔輝が僕を手招きしていた。
「どうした?」
「神代さんから、廣瀬君が来たら中を通すよう言われてるんだ」
「いや、それはダメだろ」
晴華から言伝を預かっている翔輝には悪いが受け入れられない。いくら友人とはいえ、そんなことしたら先に並んでいる人たちに申し訳ない。別に僕らは待ち合わせしているだけでここに用があるわけじゃないしな。
「ごめん、言い方間違えたよ。厨房の方に通してほしいって」
「成る程、そっちか」
翔輝の訂正ですぐに理解する。
僕らも去年はそうだったが、カフェを出す時は教室の一部をパーテーションを使って厨房にしていた。食事の準備を人様に見せないようにしたかったし、簡易の休憩スペースも欲しかったしな。Cクラスもそうしているということか。
それなら遠慮する理由もなく、受付に会釈してから教室に入った。
「おお……」
人、もっと言えば男性客の多さは想定通りだったが、店員たちの服装に驚かされた。
男女ともに犬ないし猫のカチューシャを身につけており、男子は着ぐるみを身に付けていたが、女子はカチューシャの色に合わせた肩出しのメイド服のようなものを身に付けていた。
アニマル要素は男子側で出して、客寄せ要素は女子側で出すスタイル、Cクラスの参謀とは美味しくご飯が食べられそうだ。
しかしながら、思ったより過激ではなさそうだ。肩出しは驚いたが、スカート丈もそれほど短いわけでもないしな。
他クラスながら分析をさせてもらってる間に厨房前まで来た。カーテンで区切ってあるが中に入っていいのだろうか。
「邪魔するぞ」
1秒ほど逡巡してから中に入ると、手前側に忙しなく動き回る厨房担当の生徒たちが居て。
奥には少々刺激的な服装をした友人の姿があった。
「ユッキー!?」
その友人こと神代さん家の晴華さんは、先程まで接客していたであろう格好にも関わらず、何故かもじもじしながら身体を隠していた。
ダルメシアンのような白黒模様のキャミソールに、同じく白黒模様の膝上スカートを身に付けており、先程見た女生徒たちの服装と明らかにランクが違っていた。一言で言うならスケベだった。
僕ってなんて愚か者なんだ、去年コイツに着てもらったチャイナドレスって健全だったのか。過激というジャンルを勉強し直さなければ。
「来るの早くない!? ホーリーにはさっき伝えたばっかりなのに!」
「そりゃすぐそこに居たしな。そもそも待ち合わせ時間だろ」
「そうだけど! 着替えてから会いたかったのにぃ!」
どうやら今の服装を見せるのに抵抗があったらしい。客として来たらどうせ見るのに何を言ってるんだ。
「こんなのどう見たって痴女だし! クラスのみんなも頑張ってるからあたしも着てるけど!」
「心配しなくても似合ってるよ。ちょっと肌は出し過ぎかと思うが」
「……っ!?」
晴華の服装を評価すると、彼女は顔を紅潮させて黙った。この格好を似合ってると評価するのは正しいか分からないが、今来ているものを否定する気にはならない。実際良く似合ってると思うし。
「……ホント?」
「僕が嘘言うと思ってるのか?」
「なら隣で歩いてて恥ずかしくない?」
「恥ずかしくないが、注目を浴びるのは避けたいな」
そう言って、僕は身に付けていたブレザーを晴華に着せてやることにした。下半身は普段のスカートみたいなものだし、これで多少はマシになるだろ。
「……いや、そういえば着替えるって言ってたか。なら上着もいらないな」
「ううん、やっぱり着替えるのなしにする」
「はっ、なんでだよ?」
「今から着替えたら時間かかるじゃん、ユッキーが上着貸してくれるならこのまま行く!」
「まあお前がそう言うならそれでいいが」
一瞬余計なことをしたかと思ったが、着替えによる時間ロスの方が重いと感じたらしい。晴華ならこの後も働く時間はあるだろうし、いちいち着替えるのは確かに手間か。
「……へへ、ユッキーのブレザーだ」
物珍しそうに僕の上着を見ていた晴華だったが、何を思ったか腕の辺りで頬擦りを開始した。
あの晴華さん、ブレザーは着るものであって頬を擦り付けるものじゃないんですが。
「男物の上着なんて珍しくないだろ、体育祭の時に着てたし」
「あれは学ランだしユッキーのじゃないじゃん! 分かった風に言わないでくれる!?」
「あっはい、なんかすみません」
勢いに圧されて謝ってしまう僕。晴華さんは大層お怒りなのですが、本当に僕が悪いのでしょうか。
「デレデレ晴華ちゃん、可愛いねぇ」
「可愛いねぇ」
厨房女子たちよ、癒されてないで助けてくれ。




