22話 学園祭7
「いくらなんでもやりすぎでしょ!」
「「すみませんでした」」
漫才終了後、拍手大喝采のままステージ脇に戻った僕と雨竜は、一緒に戻ってきた出雲に説教されていた。
あの、次の出し物が始まるっぽいのですが、場所変えたりとかはしない感じですかね。
「だいたいいつ着替えたのよ! 私が向こう側に行くまでは制服だったでしょうが!」
「まさに御園さんが向こうに行った瞬間に着替え始めたよ」
スクリーンの画像切り替えを担当してくれていた翔輝が、僕らの代わりに代弁してくれる。
「そのタイミングで女子が入ってきてたらどうするのよ! やるなら計画的にやりなさいな!」
「「返す言葉もございません」」
雨竜と並んで謝っているが、なんで僕まで謝る必要があるのだろうか。僕も雨竜に巻き込まれた被害者だと思うんだが、説教慣れって怖いね。
「……まったく、うまく返せたから良かったけど急にアドリブなんて言われて凄く焦ったんだから」
「ゴメンね御園さん。その方がリラックスできると思ったんだけど」
アドリブでリラックスできる人種なんて青八木家でもお前しかいないだろ。いや、あの母上殿もまったく臆さなさそうだな、恐ろしい血液をお持ちなこって。
「……まあヤケクソ気味なのもあったから、気持ちよく声は出たと思うけど」
「確かに、リハーサルより声は出てたんじゃないか?」
本番では緊張が邪魔して声が小さくなるなんてよく聞く話だが、そこへいくと出雲はスタートからハキハキと発声ができていたと思う。
それが青八木アドリブ理論によるものだとするなら、やはりコイツは末恐ろしい男ということになる。たまには思い切り失敗でもしてくれないだろうか。
「……アドリブの愚痴はこれくらいにしておいて」
そう前置きをすると、出雲は先程の厳しい顔つきから一転、分かりやすく頬を緩ませた。
「私たちの漫才、すごく盛り上がってたわよね!?」
「だな」
細かく一人一人を見ている余裕はなかったが、間違いなく体育祭は湧いていた。ボケやツッコミのテンポ、声量、画像のタイミング、どこも及第点を出していい結果だと思う。地道に練習した甲斐はあったということだ。
「私、みんなで漫才して良かった! すっごく楽しかった!」
幼ささえ感じさせる無邪気な笑みを見せる出雲に、つられて僕らも顔が綻ぶ。
最初はただひたすらに面倒だと思っていたが、過程含めて充実していたのは確か。その上結果までついてきたのだから、僕としても嬉しい限り。出雲も同じ気持ちだろう。
「堀本君もありがとう、Bクラスの出し物に協力させちゃって」
「いやいや、他ならないみんなの頼みだからね。それに僕も楽しかったから!」
「ステージ出し物は実行委員会で録画してるから、堀本もよかったら見てくれよ」
「勿論! 正面から見たことなかったから楽しみにしてる!」
今更ながらだが、翔輝含めた4人で成功記念のハイタッチを行う。恥ずかしながら、青春の香りというものを感じてしまった。
「また何かみんなでしたいわね」
「しばらくは勘弁してくれ」
僕の弱音が面白かったのか、3人はクスッと笑い始める。
それがイラッと来なかった僕は、やはり青春とやらに毒され始めたらしい。
ー*ー
ステージ出し物を終えた僕は、着替えを済ませてから急いで1年Aクラスへ向かう。
ステージから出たところで漫才の感想を語りたい若人たちに囲まれ、時間を費やしてしまった。
評価してもらえるのは嬉しい限りだが、タイミングが悪すぎた。雨竜や出雲の交友関係を踏まえれば無碍にすることもできず、集合時間ギリギリまで語らってしまった。
だが自分の尻は自分で拭くというもの。廊下には朝の時間帯より明らかに人が増えていたが、四股で鍛えたバランス感覚を駆使して人を縫うように進んでいく。この技術、応用すれば初詣も一瞬で済ませられるのではなかろうか。すみません、順番待ちという仕組みまでぶち破るつもりはございません。
階段を駆け上がり廊下を出たところで、教室の外で待つ天使の姿を視認した。時刻は11時59分、ミッションコンプリートである。
「やあやああいちゃん」
手を振りながら声をかけると、俯いていた顔がこちらを向き、ゆっくりと綻んだ。
「こんにちは廣瀬先輩!」
まさに天使のような笑みを浮かべて迎えてくれるあいちゃん。今日も翼を目にすることができない、どうやら修行不足のようだ。
「ステージ出し物お疲れ様でした!」
「あいちゃんも見てくれたのか?」
「はい! とっても面白くてずっと笑ってました!」
シンプルながらに1番嬉しい感想。身近な後輩が楽しんでくれているというのは素直に喜ばしいな。
「雨竜はともかく出雲はかなり練習してたから、見かけたらぜひ感想を伝えてくれ」
「はい! 出雲先輩もカッコよかったですし!」
あいちゃんとしばらく会話を続けていたが、もう1人の参加者である蘭童殿がなかなかやってこない。生徒会活動が立て込んでいるのだろうか。
「あいちゃん、蘭童殿から何か連絡は来てないか?」
このまま2人で待っていても仕方ない。あいちゃんに蘭童殿の状況を窺うと、彼女は少しばかり頬を染めて目を逸らす。
「その、ついさっき空ちゃんから連絡が来てたんですが」
そう言って、続きを言うべきか悩む仕草をするあいちゃんだったが、覚悟を決めたように僕に向き直る。
「空ちゃん、生徒会活動で外せないからって! 廣瀬先輩と2人で回ってほしいって!」
僕の思考は一旦停止する。
……えっ? 推しとデートってこと?




