20話 学園祭5
「お前、こんなところで何してんだ?」
佐伯少年に漫才というものがいかに難しいか熱弁していると、先程ステージで陽嶺高校の頂点に立ったことをアピールしてきた権力第一主義、青八木雨竜が怪訝そうに声を掛けてきた。
「あのな、そういうときはまずお前が何をしてるか話すもんだろが」
「自分が何してるか喋りながらどうやって声掛けるんだよ」
「『そこの階段でイケメンやってますけど君は〜?』とか言え」
「地縛霊か何かか俺は」
イケメンは否定しないのかよと思ったが、そういえばこの男大層眉目麗しゅうあられたわ。平等ってなんだろうね。
「来賓の方の学校案内を済ませてから玄関まで見送ってたんだよ」
「うげ、そんな面倒なことまでしてんのか」
「一応生徒会長の仕事だからな」
「嘘つけ、藤宮先輩にそんなことできるか」
「一応生徒会役員の仕事だからな」
「さらっと言い換えるな」
どうやら去年は木田さんか堂島先輩が対応したらしい。適材適所で良いかと思います。
「お前は1階で何佇んでるんだ?」
「佇むって、佐伯少年に説教してるのが見て分からんのか?」
「そりゃ当事者居ないのに分かるのは難しいな」
「はっ?」
軽く辺りを見渡すと、いつの間にか佐伯少年は居なくなっていた。雨竜が登場した瞬間に姿を消すって、どれだけコイツにコンプレックスがあるんだよ。
「お前、佐伯と仲良いのか?」
「体育祭で一緒に騎馬戦やってただろ。そりゃ校内で出くわせば話くらいする」
「あいつあの時馬やってたのか」
流石に佐伯少年が可哀想になってきた。あれだけ敵意剥き出しで挑んでいたのに認知すらされていないとは。豪林寺先輩の存在感が凄かったから仕方ないね。悔しかったら体重を倍にしてみよう。
「そうそう、漫才の件で1つ相談があったんだ」
ここからまた忙しなく働きに戻るのかと思いきや、雨竜は横に並んでステージ出し物の話題に切り替えた。そういえばそろそろ体育館に行っても良い時間か。
「おいおい、いくらお前でも裸でお盆芸はハードルが高いだろ」
「漫才のどこでやる余地があるんだよ」
「最初から全裸ならイケるんじゃないか?」
「漫才で笑ってもらえる自信がないな」
「すまん、僕が悪かった」
登場から全裸の雨竜が居たら漫才どころの騒ぎじゃない。皆が皆、雨竜のウルルンに注目してしまう。せっかく練習してきた漫才がパーになるような真似は避けるべきだろう。
「で、何を相談したいんだ?」
「まあさっきの話と多少関係はあるんだが」
「嘘だろ、僕はシュージ0%なんてやらないぞ!?」
「誰なんだそいつは」
戦々恐々としながら雨竜の話を聞いたが、拍子抜けするくらい大した内容ではなかった。面倒ではあるがわざわざ相談することではない気がする。
「改まって言うことじゃなくないか?」
「実は御園さんに内緒で進めたいんだよ」
「……いや、すぐにバレるだろ」
「ステージの両端から登場するようにすればイケるだろ?」
「確かにそれならイケるが、僕らがけっこう大変じゃないか?」
「急いでやればイケるって」
「やれなくはないが、そもそもそんなに頑張ってやることかこれ?」
サプライズとしても弱いのに、雨竜の拘りが理解できなかった。初っ端から気を衒って出雲が硬直する可能性だってあるだろうに。
「御園さんに楽しんでほしいんだよ、出し物だからじゃなくて素でな」
しかしながら、雨竜としてはこれが3人で楽しむために必要な要素らしい。
仕方ない、天下の青八木雨竜が言うなら大変遺憾ながら首を縦に振ってやろう。確かに僕らのプチサプライズで出雲なら素で突っ込めるとは思うし。
「分かった。お前がそこまで言うなら乗ってやらなくもない」
「御園さんにはけっこう大変な役割を押し付けてるんだ、緊張くらい解いてやろう」
「このサプライズのせいで余計緊張させるかもだけどな」
「それならそれで俺たちがツッコミやすいようにボケるだけだよ」
「はあ、なんで初漫才からアドリブが頻発するんだよ」
僕は思わず溜息をつく。失敗しないよう念入りに練習したのに、このボケのせいで台無しになるかもしれないなんて。
……まあいいか。スベったならスベったで話の種くらいにはなるだろう。雨竜の提案にぐちぐち言う理由にもなるしな。佐伯少年の誹りを受けるのは非常に不愉快ではあるが。
「言っとくが、スタートにアドリブが入ることくらいは出雲に伝えるぞ。始まっていきなりフリーズされたんじゃ僕らもフォローできないからな」
「元々そのつもりだよ。素のツッコミをもらってから徐々に台本に慣れてくれればって感じだ」
「そんなに過保護じゃなくても出雲なら卒なく熟すと思うけどな」
「熟してほしいんじゃなくて楽しんでほしいんだよ。真面目な御園さんはやり切ることに注力しそうだからさ」
「ちょっと待て、その言い方だとまるで僕が不真面目みたいじゃないか」
「なんでそう捉えるんだよ。お前は不真面目みたいじゃなくて不真面目そのものだ」
「はいカッチーンきたー」
漫才というカテゴリに対して真摯に向き合ってきた僕が不真面目? これは戦争ですわ。真面目不真面目戦争ですわ。
「あれ、2人ともどうしたの?」
雨竜へ戦いを仕掛けようとしたタイミングで、もう1人の相棒である出雲が少し息を切らしながら現れた。
「御園さんこそ、まだ当番の時間じゃないの?」
「みんなが気を遣ってくれて早めに抜け出させてもらったの。先に体育館で自主練でもしようと思ったらまさか2人と会うなんて」
「出雲、今は自主練なんてどうでも良い。トリオ解散の危機だ」
「解散? 始まる前からどうしたのよ?」
僕の様子を神妙な顔付きで受け止める出雲。どうやら不穏な空気を感じ取ってくれたらしい。さすが我がクラスの委員長。
その委員長だからこそバシッと言ってくれるはず、廣瀬雪矢は真面目一辺倒な男だって。
「出雲! 僕は真面目な男だよな!?」
「そんなわけないでしょ、何のギャグ?」
解散じゃあああ!! ステージに立たずしてトリオ解散じゃああああ!!
次回、漫才です。




