16話 学園祭1
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陽嶺祭当日。いつもより早くに到着した生徒たちは、教室で最終準備を終えた後、体育館で待機していた。
「これより、陽嶺高校学園祭『陽嶺祭』を開始します」
開会式が始まり、校長らしき人物の宣誓により遂に陽嶺祭の始まりを迎える。
普段とは異なり、1年から2年生で列を作り、体育館後方には3年生有志用と来訪者用の席が並べられている。藤宮先輩や木田さんなど、3年生も数人かは参加されており、来訪者が参加して良いのも始業終業式と違う点だろう。
「続きまして、生徒会役員紹介です」
教頭先生らしき人の進行で、そんなプログラムがあることに初めて気付く。
よく考えてみたら、生徒会選挙後に役員が誰になったかを把握する機会がない。もしかしたら掲示板なんかに貼り出されているのかもしれないが、わざわざ確認する人間はほとんどいないだろう。
つまりこの場でお披露目があるわけだが、傍若無人の会計様はどんな自己紹介をされるのやら。
「生徒会役員は、壇上に登場ください」
その合図で、ステージ脇から見知った生徒たちが顔を出し、壇上に並び始める。
最初にマイクを持って話すのは、もはや陽嶺高校の象徴と言っても過言ではない全てを備えてしまった男。
「皆さんおはようございます。生徒会長の青八木雨竜です。今更ではありますが、生徒会長承認ありがとうございます」
青八木雨竜は、全異性を落とさんとする爽やかスマイルを見せつける。心なしか発光しているように見えるが、SDGsにでも取り組んでいるのだろうか。生徒会長だし。
「今年の陽嶺祭、生徒の皆さんも色んな取り組みをしてきたかと思いますが、生徒会チームも陽嶺祭を盛り上げようと色んな試行錯誤をしてきましたので、余すことなく楽しんでいただければと思います!」
一礼と同時に拍手が飛び交う体育館。さすがは神の申し子、1ミリたりとも緊張している様子はなかった。しかし面白味がないな、生徒会長ならマイクが爆発して髪型がマイクみたいになるくらいの仕込みはしといてもらいたいものだ。
「生徒会副会長の楠伊緒です。昨年からの生徒会役員の経験を活かして、皆さんの生活の手助けをできればと思っています。よろしくお願いします」
マイクを渡されて次に話したのは楠伊緒。学園祭の開会式だがそこにフォーカスはせず、あくまで生徒に向けて話している感じが好感が持てる。いつも自信がなさそうな印象を受けるが、藤宮先輩に付き合ってきただけのことはあるな。
「生徒会書記の蘭童空です! より良い学校生活を推進するために、唯一の1年生という立場から色んな意見を出していきたいと思います!」
続いて我が自慢の後輩であるところの蘭童殿。こういうフォーマル寄りの場でも元気いっぱい明るく話せるのは彼女の美徳である。
そして、最後の1人。
「生徒会会計の名取真宵です」
蘭童殿からマイクを受け取った真宵は、軽く呼吸を挟んでから僕らを見る。
「皆さん思うことはあるかもしれませんが、全て結果で語ります。以上です」
シンプルな一言。だからこそ、真宵の生徒会入りが伊達や酔狂ではないと伝わったことだろう。言葉の重みで、生徒達の不安を吹き飛ばしたのだ。
カッコいいね。僕を奴隷扱いしなければなお良しだ。まあ会計だけでなく生徒会長もだが。
最後に全員で一礼をして、体育館に拍手が響き渡る。拍手なんてただの社交辞令ではあるが、ちゃんとみんなの自信に繋がってほしいと、らしくないなりに思うのだった。
ー*ー
開会式が終わって教室に戻ると、クラス出し物の準備に取り掛かるクラスメート。とはいえクイズ正解者用のお菓子を取り出して並べるだけなので一瞬である。去年はスタートまで慌てふためいていたからえらい違いだ。
「雪矢」
そういえばどんなクイズが展示されているのかと書き込まれている模造紙を見ようとすると、同じ時間の担当なのか、出雲が声を掛けてきた。
「あなた、お客様への接客方法ちゃんと把握してるんでしょうね」
「当たり前だろ。いくら何でも過保護が過ぎないか」
彼女の指摘に軽くイラッとする僕。飲食店でもないクイズ展示だけの出し物の接客で手間取ると思われるなんて心外である。
「そ、そうね。ごめんなさい、あなたに説明してなかったから心配だったんだけど把握してたのね」
「クイズを外したちびっ子の前で景品のお菓子を食べればいいんだろ?」
「あなたの自信はどこから来るのよ!?」
風邪薬のコマーシャルみたいなキレ方をする出雲。いやいや、今時の若い奴らはハングリー精神が足りてないからそこを刺激してやるべきだろ。
「そんなことして子どもにトラウマ植え付けたらどうするのよ?」
「ちびっ子たちを甘く見過ぎだな。次こそ正解してやるという熱い気持ちが知識欲を掻き立てるんだよ」
「はあ、良かった。自分の心配センサーを信用して」
出雲さん? 溜息吐きながら無視ってけっこう酷くないっすか? 僕にも人の心ってものがあるんですよ?
「万が一あなたに声をかける来場者が来たら私を呼んで頂戴、それくらいならできるでしょ?」
どうやら僕は接客の資格を失ったらしい。妥当な判断かもしれない。
よく考えたら展示されてる内容も把握してないのに接客もクソもないじゃないか。僕にできることはお菓子を美味しそうに食べてちびっ子たちの食欲を煽るくらいだな。自身の技量を正確に分析してその場に合った立ち回りをする、もしや僕はできる男なんじゃないだろうか。
「コラ、お菓子に手を出さない」
抜き足差し足で場所を移動したが、あっさり出雲に拘束された。なんか僕、マークされてない?
「なあ出雲よ。これらはちびっ子たちに提供されるわけだよな?」
「クイズに正解された来場者皆さんによ」
「そんな不特定多数に配るもの、しっかり毒味をして然るべきだろう」
「毒味って、いつの時代の表現よ。そんなのとっくに済ませてるに決まってるでしょ」
「はあ!? なんで僕を呼んでないんだよ!?」
「そもそもあなた教室にいないじゃないの!」
「当たり前だ! 教室にいたら手伝わなきゃいけないだろが!」
「じゃあ検品だって必要ないでしょうが!」
「検品は別腹だよ!」
「スイーツみたいに言うな!」
僕と出雲の言い合いがヒートアップしているが、他の当番たちは僕らのやり取りなど慣れたように通常運転だ。学園祭が始まってるのだから僕らを注意するべきだろうに。
「朝から仲良しさんだね」
そんなことを考えていると、聞きに聞き慣れた最愛の人の声が聞こえてきた。




