13話 日程調整
雨竜の台本が完成し、漫才の練習に時間を使った放課後、それなりに疲弊を感じながら家に帰る。
台本を覚えるという過程で挫けることのない優秀な連中なのは助かったが、やはり呼吸を合わせるのはそう簡単にできることではなかった。
ツッコミのタイミングが早すぎても遅すぎても良くないし、そもそも噛んで何を言ってるか分からないのは論外である。
ピンマイクのようなものは準備するとは言っていたが、お笑い以前に恥じらいを捨ててハキハキ話すことが重要になってきそうだ。
まあ今のところ出雲も楽しそうにやっているし、人様に見せられるものには完成度は上がるだろう。
ステージ出し物のことは一旦置いておいて、学園祭当日の予定を整理する。
去年はクラス出し物で教室に張り付いていたから良かったが、今年は展示で存外暇である。
クラス出し物では1日目と2日目の朝9時から10時を担当、それ以外は好きなようにしていていい。
他にはステージ出し物が1日目の11時半から、生徒会出し物が2日目の13時半から開催されるが、それ以外は自由時間ということになる。
蘭童殿とあいちゃんと学園祭を回る予定もしたところだし、他の面々とも可能な範囲で交流を図りたいところだ。
とりあえず、1番自由度が低そうな天然ガールへと連絡を入れてみる。
『はいもしもし! どうしました?』
1コール目が止まない間に電話に出たのは、青八木さん家の梅雨さんである。元気いっぱい明るい声が耳に響いた。
「遅くに悪いな、勉強中か?」
『いえいえ、ちょうど休憩しようとしてたところなので大丈夫です!』
「そうか」
方便かもしれないが、電話は問題ないらしい。
「ちょっと相談したいことがあるんだが」
『相談? 雪矢さんが珍しいですね』
「まあ僕は何でも解決できてしまうからな」
『はい! すごくカッコいいです!』
いや、そこはツッコミを入れるところなんだが。
『それでなんでしょうか?』
「梅雨はウチの学園祭には来る予定なのか?」
『勿論です! 初日は学校があるので行けませんが、2日目は友達と行こうと思ってました!』
「友達と……」
梅雨が2日目に来るだろうことは想定していたのだが、友達の存在は誤算だった。そりゃそうか、僕がこうして仲が良い相手を誘おうとしているのと同じだ。1人での行動は嫌いではないが、複数人で楽しめるならそれに越したことはない。
『あっ、勿論2-Bクラスにも行きますよ? 雪矢さんにもお会いしたいですし』
「いや、そういうことじゃなくてだな」
『はい? そういえば相談って?』
「うむ、少し言いづらいんだが、学園祭に来るなら一緒に回れないかと思ってな」
『回ります!!』
思わず電話を耳から離してしまう程のボリュームが飛んできた。
『回るに決まってるじゃないですか! 雪矢さんと学園祭デートなんて最高過ぎます!』
「そこまで喜んでくれるなら光栄なことだが、友達は良いのか?」
『後で合流すれば良いだけなので問題なしです! というか雪矢さんからお誘いがあったのに友達優先しちゃったら皆に怒られちゃいますよ!』
「そうなのか?」
『それはもう! 友情とはとても複雑なものなのです!』
どうやら女子たちの友情の中には難しそうなルールがあるらしい。まあ僕も翔輝から誘われても彼女を優先しろと言うだろうし分からなくはないが。
『なーんだ。それならわたしから声掛ければ良かったです』
「確かに、普段なら僕が誘う前に梅雨から一声ありそうなところだが」
『だって去年の雪矢さんすごく忙しそうでしたもん! クラスに行っても全然話す機会なかったですし』
「梅雨、ウチのクラス来てたのか?」
『来てたというかチラッと立ち寄っただけですね。お客さん多すぎて入れる気がしませんでしたから』
「成る程」
『でも、そのおかげで雪矢さんからお誘いを受けたのでオールオッケーです!』
「なんじゃそりゃ」
どうやら梅雨は、僕に誘われたのがよっぽど嬉しかったらしい。電話越しでも分かるくらいに声が弾んでいる。そこまで喜んでくれるなら誘った側冥利に尽きるというものだ。
「午後は生徒会出し物でバタついてるだろうから、10時くらいからどうだ?」
『了解です! 着いたら雪矢さんの教室に向かいますね!』
「合点承知之助だ」
梅雨とのやり取りを終え、続いてもう1人の天然ガールへ連絡を入れる。しかしながら、数コール続いても応答がない。
流石に切ろうと思ったタイミングで、画面が通話へと切り替わった。
『もしもし!? ごめんなさい、遅くなっちゃって!』
電話口の相手、桐田朱里さんは冒頭から妙に焦った声を発していた。なんだかいつも慌しい奴だな。
「どうした? 忙しいなら後日でいいんだが」
『そうじゃなくて! ちょうどお風呂上がりだったから掛けられる体勢になるまで焦っちゃって!』
「いや、別に見えてないんだから気にすることないだろ」
『こっちは気にするの! 裸のまま電話なんて落ち着かないし!』
「だったら着替えてから折り返してくれれば」
『そんなこと考えてる余裕ありません!』
怒られた。僕の電話を優先してくれたことは嬉しいが、それで怒られる僕が不憫では。
まあいいか、急に連絡して慌ただしくさせた僕にも1ミクロン程度は悪いところはあるようだし、仏の雪矢の異名を轟かせねばなるまい。
「それで、今は通話して大丈夫ってことでいいんだな?」
『厳密に言えば大丈夫じゃないけど、大丈夫ってことにします!』
「どういうこっちゃねん」
このまま朱里のテンポに合わせてては話が進まないため、早速本題に入ることにした。
「学園祭、空いてる時間はあるか?」
『えっ?』
「一緒に回ろうと思ったんだが、予定を教えてくれ」
そう言うと、こちらへの反応がないまま電話口がまた騒がしくなった。切られていないから通話する意志はあると思うんだが。
「おーい、聞こえてるか?」
『お待たせしました! 少しだけ防御力を上げてました!』
相変わらず何を言ってるかよく分からないが、風呂上がりような反応だったし服装を気にしているのだろう。面倒なので全てを受け入れる神のスタンスに立つことにしよう。
「それで、空いてる時間はあるのか?」
『うん! 1日目なら15時以降かな、それまではずっとバタバタしてて。2日目もクラス出し物で空いてるのが午後スタートくらいかも』
「2日目のその時間は僕がキツそうだから1日目の15時にするか。って勝手に決めたが一緒に回るで良いのか?」
僕から誘っておいて何だが、朱里は僕を好いていることを公言していない。学園祭なんていろんな目の人に触れる場所で一緒に移動すれば周りからの反応が気になるところだとは思うが。
『うん! 誘ってもらえて嬉しい!』
「そうか」
梅雨と同様に、朱里も誘ってもらえたことに対して喜んでくれているようだった。
「もし回りたいところがあったら考えといてくれ」
『平日だし、回ろうと思えば全部回れると思うよ』
「ほう、全制覇を目指すのもアリか」
『晴華ちゃんのところには行きづらいんだけど』
「確かに、あいつのその日の機嫌で考えるか」
『いや、廣瀬君が女の子と遊びに来たらいくら機嫌が良くてもテンション下がっちゃうと思うけど』
「そんな繊細な奴じゃないと思うが」
こうして少しずつ予定を立てることに成功してきた僕だが、絶賛話題に上がっている晴華や蘭童殿達とのことも考えなくてはならない。
……あれ、冷静に考えて僕ってかなりのすけこましか? 学園祭とはいえ時間毎に回る異性が違うって女の敵感がすごいな。




