12話 ネタ会議
改めて雨竜に生徒会出し物バトルの戦線布告をした翌日、その相手に呼ばれた朝早くに登校している。とは言っても最近は朝早いのがデフォルトだから不都合はないのだが。
どうやらステージ出し物のネタが出来上がったので読み合わせをしたいらしい。生徒会の仕事もある中随分ご立派だが、バトル前に仲良く漫才してるって傍目からだと滑稽過ぎるな。どんな間柄だよ。
「ったく、ちょっとは空気読めないもんかね」
「第一声がそれじゃあ何も察せないからな」
僕のボヤきにいちいち突っ込んでくる雨竜。拾って欲しくて呟いたわけじゃねえよ。
「おはよう、ごめん待たせちゃった?」
「全然、時間より早いくらいだし」
しばらくすると漫才メンバーの1人である出雲が合流し、早速会議を始めることになった。
「朝早くから悪いんだけど、ステージ出し物のネタができたから見てもらおうと思って」
「事前に聞いてたとはいえ、随分早くできたね」
「ふん、台本があれば良いってもんじゃない。人様に笑いを提供できるかが全てだ。僕は厳しくチェックさせてもらうぞ」
「雪矢あなたね……」
「御園さん大丈夫、雪矢の言う通りだから。初めて作ったしダメ出しや言い方に注文があれば言って欲しい」
殊勝なことを言う雨竜から台本を受け取り、早速中身の確認に入る。
確かに雨竜のダメ出しをしたいという個人的な私怨がないこともないが、1番は観に来てくれたお客さんが退屈しないようになっているかである。わざわざ僕ら素人の漫才に付き合ってくれるのだ、少なくとも僕らが自信を持って披露できなければダメだろう。
そういう思いの下、雨竜作成の台本を読んでいたが、率直に言うならよくまとまっていた。
僕の好きなタイプではないのだが、学園祭の漫才ということもあり、陽嶺高校でやる意味も付加されており、学校を回る楽しみが増えるという点で完成度が高い。
何よりこの流れなら出雲もそこまでやりづらくないはず、普段の会話の延長のようなものだし。
「えっ、これ私できるかな」
と思っていたのだが、当人は真っ先に不安を感じたようだった。
今回のネタは、僕と雨竜が2人漫才のように話を進めている中、僕ら2人に出雲がツッコミを入れるというのがベース。ツッコミ担当が1人ということで少しプレッシャーを感じているのかもしれない。
「大丈夫だと思う。台本に書かれてるから気後れするけど、最悪セリフが飛んでも普段の会話みたいに突っ込んでくれれば俺と雪矢で成立させるし」
雨竜の言う通り、ネタではあるがネタではなくとも成立しているというところがミソ。ツッコミの言葉が間違っていても、ツッコミ行為さえしてくれればボケ側でうまく立ち回るだけ。まあ僕も雨竜も初心者なので大それたことは言えないが、雨竜なら何とかするだろう。
「雪矢は? あなたも私にできるって思う?」
出雲は僕にも返事を求めてきた。それだけ失敗できないと考えてくれるのは一緒にやる側として嬉しい限りだが、どうやら肩に力が入り過ぎているらしい。
「あのな、こんなの別にできなくてもいいんだよ」
「えっ?」
というわけで、できるだけ出雲がリラックスできるよう言葉を投げる。
「そりゃ見てくれるお客さんに面白いものを提供したいってのが大事だが、僕らは素人でプロじゃない。間違ったところで今後の学校生活のネタにされる程度で痛くも痒くもない」
「それは、うん」
「1番大事なのは僕らが楽しむことだ。わざわざステージに立って出し物してるのにつまらなかったらそれこそ最悪じゃないか」
「……」
「だから失敗してもいい。それすらネタにして面白くできれば最高。せっかくやるんだから前向きに頑張っていこうぜ」
説教臭くなったが、嘘偽りなく僕の本心である。やりたくなかったステージ出し物だが、やると決めた以上皆が満足する形を作りたい。その為には僕らが満足しなければ始まらない。出雲もそこさえ分かってくれればきっと楽しめると思う。
「……うん、そうね、その通りだわ。漫才なんて今後一生やる機会もないかもだし、楽しまないと勿体ないわね」
不安に揺れていた出雲の瞳は、今や真っ直ぐ未来を見据えていた。さすが切り替えの早い委員長さまである。
「青八木君のネタも陽嶺高校メタっぽくて面白いしね。でもこれ、事前準備だったり確認だったりいるんじゃない?」
「勿論。ハードルが高ければネタごと代えようと思うけど、基本的にはこれで行きたいかな」
「私もそう思う。ビジュアル攻めは分かりやすいし、誰かにフォロー入ってもらいたいわね」
そしてすぐさまネタについて言及を行う出雲。こういう姿を見ていると、雨竜との相性もよく見えるんだがな。
「雪矢、お前は台本に指摘はないのか」
2人の会話が落ち着いたところで、雨竜が僕に話を振る。ネタ合わせをする前に修正箇所を確認したいのだろうが、残念ながらその期待には応えられない。
「正直実際にやり取りしてみないと分からん。音が長すぎるとか聞きづらいとか、テンポが悪いところはしっかり見直したい」
ネタの方向性も分かったところだし、後は実践して微修正していくしかないだろう。合わせる前に全部直せると思うほど雨竜も傲慢ではあるまい。
と、僕の返事が意外だったのか、雨竜と出雲は目を見開いて驚いていた。そして互いに目を合わせると、2人してニヤリと口角を上げ始めた。
「つまり俺の台本は全く直すところがない完璧なものだと雪矢君が認めてるってことでいいんだな?」
「あんなに厳しくチェックするって言ってたのにねぇ」
……成る程。何がおかしいのかと思っていたが、揚げ足を取るのが大層楽しそうでございますこと。
「中耳炎か? 実際にやってみないと分からんって言ったばかりだろ」
「つまり台本では完璧ってことだろ。雪矢にそこまで評価されるなんて鼻が高いねー」
「ああうるさいうるさい! 言っとくが雨竜、お前にミスなんて一切許されないからな! そこまで完璧がお好きなら徹底してもらう!」
「おいおい。そんな言われ方して俺が縮こまったらどうすんだよ」
「お前がプレッシャーなんて感じるわけないだろ。プレッシャーのプの字に謝れ」
「なんでやねん」
「ちょっと雪矢、さっき私に言ったことと違うじゃない」
「よそはよそ! うちはうち!」
「それ使い方違くない?」
好き放題言い続ける雨竜と出雲へ真っ向から立ち向かう僕。
現時点でボケとツッコミの配役に違和感を覚えたが、こういうのは現実と乖離してナンボだと思うことにした。




