事件です!7
先週更新できなかったので、今週少し長め(当社比)です。
霧の夜というのは、この中世ヨーロッパ地方を感じさせる街並みだとかなり迫力がある。
しかも先を行く案内人(?)がミイラだ。
霧の街を死人に誘われって、怖っ!もう帰っていい?黒モップ捜索は明日じゃダメ?
「・・・此、処」
裏通りに面した、大きくもなく、小さくもない至って平凡な家の前でミイラが止まる。
左右を見ても殆ど同規格の家の並びにあるそこは、外観は程良く掃除もされていて何か事件が起きた際には、「まさかこんな所で」とか「近所付き合いは無かったですけど普通でしたよ」とか言われる程度に周囲に溶け込んでいた。
しかし今はその普通さが逆に不気味さを醸し出し、気合いを入れておかないと耳が伏せてしまいそう。
いつから俺はホラーワールドの主人公に成ったのか、と内心後悔とため息の海に浸っていた時だ。
『どこまでもばれへん様やっとんな・・・こいつらの上相当頭回るタイプや。できればこれ以上は関わらん事を祈るわ』
「っ!!!」
心臓止まった。
声を出さなかった自分を褒めたい。
『あ、ごめん。大丈夫か?』
『この尻尾を見て大丈夫だと思うか?!』
後ろからついて来ているのは知ってたし、コールも繋ぎっぱだったけどっ!
尻尾がお掃除モップだから。
頼むから声掛けるなら状況と言うより、現場見て!こんな怖い所でマジヤメテッ!
「どうカ・・・し・・・タカ」
「いや、随分平和的な場所を巣にしてんだな」
「あかラさマな、場所ヨり・・・イ、外と見つカ、らなイ・・・らしい」
もう心臓ばっくばくで、心の冷や汗が滝だけど(猫人は猫同様に殆ど汗をかかない)、覚られないように返事を返す。
きっと今の俺の装備品には『千の仮面』とかあるに違いない。
王都の貴族に雇われた、同じ亜人を売り買いすることに頓着しない金で動く非情な猫人。その仮面を被るのよ、誉っ!
『マレ、マレさんや。俺が悪かったから帰って来たって』
とか現実逃避してたら、心の声がコールで先輩に筒抜けてたらしい。
何かめっちゃ申し訳なさ気に謝罪された。
「入、レ」
ミイラに至っては乾燥しすぎて感覚も鈍いのか、俺の言うことを特に疑う感じもなくドアを開け、入室を促している。
ギィィィッ―。
如何にもな音を微かにたてドアが開かれる。
外見は小綺麗だけど、少々建て付けが悪い様だ。
「・・・中も普通だな。まさか」
「だイ丈、夫ダ・・・だマ、しタ・・・リ、ハし無イ」
言い終わる前に、否定された。
信用して良いだろう。
だってミイラ微妙に慌てた感がある。
「こ、ッちダ」
ミイラは室内に明かりを灯しながら家の奥に向かう。
俺は後からついて来るであろう先輩の為にドアに細工をしておこう。粘土を挟んで閉まりきらない様に、と。よく見かけは子供な探偵がガムでやってる手だ。
ミイラに続き広くない民家の居間を突っ切った先にあったのは、箪笥。
徐にミイラがその扉を開け、中に掛かった服を端に寄せるとその先には石造りの一畳程の空間。床には地下へ続くと思しき階段があった。
「・・・・・・・・・」
何ということでしょう。何の変哲もない箪笥は隠し部屋への入り口だったのです。
思わず例の住宅リフォーム番組風ナレーションが脳裏を掠めた。
箪笥の向こう側ならナ〇ニアでも良かったんだが、既にファンタジー世界だしな。
よく見れば元々この部屋に入る為にあったドアを外し、背板を抜いた箪笥を置いたのだとわかる。つまり地下は食料庫か何かだったのだろう。
「手が込んでるのか、暇な阿呆か、お前の上は何なんだ?」
「さあナ。お、レには・・・関ケ、い無イ」
ミイラは部屋の入り口にあったランタンを片手に階段へ向かう。
心なしか会話が滑らかになってきている気がする。
階段を降りきると食料庫にしては広すぎる空間に、大小幾つもの檻が置かれていた。
全てに何かしらが入れられていたならそれはもう賑やかであろうが、幸いな事に檻の大半が空で使用中なのは二つだけ。
大きめのそれには黒い、犬のような何かと―。
「・・・元気な袋だな」
檻の天井から吊された荒ぶる麻袋。
あれが知り合いで無いことを切に願う。
「き、にスルな。こチら、が・・・本命、ダ」
「いや、気にするだろう?」
一体どんな丈夫な袋を使っているのか、中身があんなに暴れまわっているのに、袋は破れもせず中身を捕獲している。
そしてミイラはさっくり袋を無視し犬に近い生き物の檻へ向かい、それを勧めてきた。
「・・・いや、それよりも袋が大変気になるのだが?」
「・・・アれは、出スの二・・・苦ろウする」
敢えて再度袋を指せば、ミイラがポツリと本音を零した。
ああなる前に随分と激しく抵抗されたのだろうか、抑揚の無い声の筈なのに疲労感がたっぷりと伝わって来る。
もしかしたら仲間の腕が一、二本宙を舞ったのかも知れない。
とはいえ檻は小さいサイズで、袋の大きさも精々小型犬~大きめの猫が入る程度。なのに、ミイラの背中をここまで煤けさせる中身とは・・・。大変気になるところだ。
「・・・見た、ケレば、後・・・袋、貸す」
俺の興味が無くならないのを察してか、ミイラは溜め息っぽい仕草をしてそう言った。
店員さん、仕事しろよ。
「ソれより、此方だ・・・少シ大キい、が・・・おとナシい」
どうあってもミイラはこの犬もどきを売りたいらしい。
そう、犬ではない。
モデルは確かジャッカル。
でもジャッカルに真っ黒な個体は居ないし、白いアイライン を引いた様な模様も無い。耳も微かに外向きにカールしているこいつは、地球ではあくまでもジャッカルをモデルにした架空の生き物だ。
ミイラにしろこいつにしろ、お前らまとめて砂漠帰れよって思う。
ああ、本日のホラーナイトはエジプト仕様ですか、そうですか。
ミイラにアヌビス勧められるってどんな状況?!
もうミイラに対する恐怖心とか無い。そんなものよりこの状況に盛大にツッコミ入れたいっ!
「でかすぎる。娘へのプレゼントらしいからな、もう少し可愛げのあるのは居ないのか?」
「確か二、サいズは・・・おオきいガ、小サいノ、は・・・今、アれしか、居ナい。あレ、に・・・比ベたラ、断然・・・向イて、ル」
とりあえずサイズで断ったら、そう返された。
まあ、ね。わからんでもないが・・・。
中身はまだ見てないけど、あの暴れっぷり。子供に与えるペットには向かないだろう。
それに比べて、アヌビスはさっきからずっとおとなしい。どころか、視線を向けた俺に軽く尻尾を振っている。愛想いいな、こいつ。
「元、何?」
ちょっとアヌビスに興味が湧いたので、ミイラに尋ねる。
「驚ク、ぞ。下級だガ・・・神、官だ」
「は?」
え?冒険者じゃないの?
つか神官って、爺様崇め奉ってる組織の一員の?
これまで爺様と直接のやりとりばかりで、神殿とかには全くノータッチだったから変所で驚いた。
「運ヨく、捕らエた。ダガれベル、理由・・・買イ叩かレ、ル」
しかしミイラは、元神官というレア感に驚いたと思ったらしい。気にせず直接売りに出す理由を語りだした。
なる程。レベルに拠ってミイラに払う金額が設定されていると。
『らしいすっよ。先輩』
『ええ商売やな。買い取り価格がレベル制なら、扱いにくくなるがめつい奴はほっときゃ自滅しするし、頭のまわる奴ら消えても分からんようなレベルの冒険者を末永く提供してくれるわけや』
『ほんとに。ところで先輩、家入れたんすか?』
『おう。只今勇者の変わりに物色中や』
おいっ!賢者っ!
『それリアルでやったらお縄・・・』
『問題無いで?証拠は残してへん』
賢者様のサブジョブは『シーフ』だった様です。まぁ、相方のサブジョブ『アサシン』だしバランスはとれているかも知れない。
気になっていた先輩がこのアジトへの侵入を無事果たしていたのは喜ばしいが、内容は大変宜しくなかった。だってはつまり、先輩が家捜ししている間俺は時間を稼ぐ必要がある訳だ。
話しを引き伸ばそうとも、話題にできる商品は二つしかない上に片方は暴れる袋。残った方で余りに話しを広げると、購入する流れになって民家へ戻る羽目になる。見た限り、この地下に金のやりとりができる準備は無いからだ。
要するに、大変めんどくさい。
「と言うことは、低レベルなのか?こいつは」
しかしやるだけやるしかない。何か徹底的な証拠が出てくる可能性がゼロではないのだ。
それにできるだけやって、だめなら最悪ミイラ倒そう。そして、アヌビスと袋を持って帰ればいいだろう。
え?それ強盗殺人?
大丈夫大丈夫、人違うから。ミイラだから。
モンスター倒して、ドロップ回収するだけだから。
「神、官ダから・・・一般ジンよリは、有・・・とハ言エ、5だガ・・・な」
「なる程な。だから別口で売り払いたい、と」
5って言ったらカナイ周辺は問題無く行動できんのね。大猪は軽いと。
都会のペットとしてなら充分じゃね?
「嗚、呼」
「・・・値段は?」
トウラは二万から割引きの一万五千だったからな。こいつなら十万位か?
「五、万」
「・・・・・・・・・」
やっっす!!?
新事実、異世界ではアヌビスがマンチカンやアメショよりも安く買えるみたいです。




