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《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た  作者: ヴァンドール


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25話(計画)

 数日後。

 クリスティアナは、マリアンヌを再び呼び出していた。


「マリアンヌさん。お願いがありますの」


「私に?」


「ええ。ルカを呼び出していただきたいのです」


「……ルカ様を?」


「そう。できるだけ自然な理由で、港へ来るように伝えてください」


 マリアンヌは少し考えたあと、頷いた。


「分かりましたわ」


「ただし、あなたはそこまでです」


「え?」


「ルカと二人で話す必要はありません。あなたはルカを港まで連れてくるだけでいいのです」


 クリスティアナは、意味ありげに微笑んだ。


(あなたはわたくしにとって、ただの駒なのですから)


「その先は、すべてわたくしに任せてください。もちろん悪いようにはしませんわ」


「……分かりました」


 マリアンヌは、それ以上は何も尋ねなかった。


 そして数日後。

 港を訪れていたルカのもとへ、マリアンヌから話があるという知らせが届いた。


『ルカ様、お時間を少しいただけませんか?』


「マリアンヌ嬢が?」


「はい。港でお待ちになっているそうです」


 伯爵家の使用人だという者の言葉に、ルカは少し眉を寄せた。


「……分かった」


 そうして港へ向かったルカを待っていたのは、マリアンヌではなかった。


「……あなたは……」


 倉庫の陰から姿を現したクリスティアナを見て、ルカの顔が険しくなる。


「どうして、あなたがここに……」


「驚かせてしまったかしら?」


 クリスティアナは、悪びれる様子もなく微笑んだ。


「マリアンヌには、あなたをここまで呼んでもらっただけですわ。あの子はもう帰しました」


「……どういうつもりだ?」


「もちろん、ルカに頼みたいことがあって」


 クリスティアナは一歩、ルカへ近づいた。


「以前にも帰り際にお話ししたでしょう? ほら、あの日よ。その時にお願いしたある伯爵様とのことですわ」

 

 彼が嵌められた日のことをわざとらしく言葉にした。


「ぼ、僕はあなたのために、伯爵との結婚に有利な嘘をつく気は初めからない」


「わたくしのためではありませんわ」


 クリスティアナは、首を横に振った。


「あなたの子供たちのためですもの」


「……子供?」


「ええ。考えてもみなさい、ルカ、あなたは侯爵家を継いでいる。いずれ嫡男がその爵位を継ぐでしょう。でも、下の子は? これからだって子供は生まれてくるかもしれないのよ」


 ルカの表情がわずかに強張った。


「わたくしが伯爵夫人になれば、伯爵領はわたくしのものになります。そうなれば、あなたの子供に将来、領地を残してあげることだってできるのよ」


「そんなものを……」


「もちろん、あなたが当てにする必要はありません。ただ……わたくしだって孫は可愛いのですよ」


 クリスティアナは、にっこりと笑った。


「子供たちの将来の選択肢が一つ増えますわ。決して悪い話ではないでしょう?」


 ルカは冷ややかな眼差しで見つめ返した。


「……孫? 一度たりと愛情を感じたことのないあなたからそんな言葉を聞くとは思いませんでしたよ。僕はあなたの言う通りにはしない」


「そうですか」


 クリスティアナの笑みが、ほんの少しだけ深くなる。


「でしたら……別の方法を考えるしかありませんわね」 


「別の方法?」


「ええ」


 クリスティアナは、ルカの顔をじっと見つめた。 


「だったらあなたの妻に、あの夜のことをお話しするという方法です」


「……!」


 ルカの顔から血の気が引いた。


「あなたは、あの夜のことを妻に知られたくないのでしょう?」 


「あなたという人は……」


「わたくしだって、できればそんなことはしたくないのですよ」


 そう言いながらも、クリスティアナの声には微塵のためらいもなかった。


「でも、あなたが伯爵様との話に応じてくださらないのなら……仕方ありませんわね」


「……脅すつもりか」


「いいえ。選んでいただくだけですわ」


 クリスティアナは、優しい母親のような笑みを浮かべた。


「伯爵様との話を受けるか。それとも、あの夜のことをジョアンナにすべてお話しするか」


「……」


「どちらを選ぶかは、あなた次第ですもの」


 ルカは拳を強く握りしめた。

 クリスティアナは、そんな息子の姿を見つめながら、満足そうに微笑んでいた。


(あら、子供たちの将来の話には乗ってこなかったのね。でも、やっぱり一番効くのはジョアンナだわ。そうよ。あなたはジョアンナを傷つけられない。だったら、わたくしの言うことを聞くしかないでしょう?)


 そして彼女は、最後に静かに言った。


「よく考えることね、ルカ。わたくしは、良い返事を待っています」


 そう言い残すと、クリスティアナはその場を去っていった。

 残されたルカは、しばらく動くことができなかった。


(……どうしたらいいんだ)


 ジョアンナに真実を話せば、彼女を傷つける。

 クリスティアナの要求を受け入れれば、伯爵を陥れるための共犯者になってしまう。

 どちらを選んでも、誰かを傷つけることになる。

 ルカは、静かに目を閉じた。


(……絶対に、あの女の思い通りにはさせない)





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