17話(理不尽な嫉妬)
(何よ、あの女!)
皆の前で、まるで自分が何でも知っているかのように話して……。しかも、私の領地の港で、この私を差し置いて、あれほど褒められるなんて。
あの商人だってそうよ。
この港があるからこそ商売ができているというのに、どうしてあんな女ばかり持ち上げるの?
おまけに、ルカ様は、あの女を見つめながら、誇らしそうに微笑んでいた。
(どうしてそんな顔をするの?)
私には、あんな顔を向けてくださらないのに。
胸の奥が、じわじわと熱くなる。
あの女が現れてから、何もかもが気に入らない。
ルカ様より八歳も年上のくせに、妻だからというだけでいつも隣にいて、まるで自分が彼にとって一番の存在であるかのように振る舞っている。
(そんなの、ずるいわ……)
ルカ様は素敵な方なのよ。
優しくて、誠実で、領民のことまで真剣に考えていらっしゃる。そんなルカ様の隣にいるべきなのは、あの女ではない。
もっと若くて、ルカ様に相応しい女性……そう、私のような。
(今に見ていなさい)
あの女が、いつまでもルカ様の隣にいられると思ったら大間違いよ。
私がルカ様を振り向かせてみせる。
あんな年上の女に、私の大切なルカ様をいつまでも独占させておくものですか。
────
私は、それからしばらくの間、どうすればルカ様をあの女から引き離せるのか、必死に頭を巡らせた。
そして、ふと思いついた。
(そうだわ……)
今度、上手くルカ様をお誘いして、あの女のもとへ帰さなければいいのよ。
泣き落としでもして、そのまま一晩こちらに泊まっていただくことにいたしましょう。
自分の夫が他の女のところに外泊したと知ったら、あの上品ぶった女は、いったいどんな顔をするのかしら?
今から楽しみで仕方がないわ。
(そうね……念のため、睡眠薬でも手に入れておいたほうがよさそうね)
私は心の中で、ふっと笑った。
(今に、その澄ました顔を嫉妬で歪ませてあげるわ)
私にとって、ルカ様は運命の人。
初めて社交界へ出た日のことは、今でも鮮明に覚えている。
その日、私はあまり評判のよくない侯爵家の子息にしつこく絡まれていた。
どうしていいのか分からず困っていた私を助けてくださったのが、ルカ様だった。
なんて素敵な方なのだろう。
そう思った私は、知り合いから、ルカ様がとても若いにもかかわらず、すでに侯爵家を継いで領地を治めていると聞いた。
当然、あの若さなのだから独身だと思った。
だから、少しでもお近づきになりたいと思っていたのに……。
ところが、実際には妻がいるというではないの。
それも、ルカ様より八歳も年上の女。
しかもその女は、なんとルカ様のお父様と一度は婚姻関係にあった女性だという。
複雑な事情があって、その婚姻は無効になったらしいけれど……。
(なんて図々しい女なの)
その話を聞いた瞬間、私は決めた。
絶対に、私がルカ様を振り向かせてみせる。
たとえ結婚はできなくても構わない。侯爵様の愛人ならそれでもいいわ。私が欲しいのはルカ様の心なのだから。
そんな時だった。
まだ社交界にも慣れていなかった私に、一人の女性が声をかけてきた。
その女性は、伯爵家当主である男性のもとで、奥様を亡くされたばかりのその方のお世話をしているという。
「もしかして、あなた……ルカに好意をお持ちなのかしら?」
突然そんなことを言われ、私は頬を赤くしながらも、ゆっくりと頷いた。
すると彼女は、思いもよらないことを口にした。
「実はわたくし、ルカの母親なの」
「えっ……?」
驚く私に、彼女は悲しそうに話してくれた。
ルカ様は、あの女にすっかり唆されてしまったのだという。
本当は優しい息子だったのに、あの女に騙され、母親である自分のことまで悪く言うようになってしまった。
母親として、これほど辛いことはない。
そう涙を浮かべながら嘆く彼女の姿を見て、私は胸が締めつけられるようだった。
(許せない……)
あの女は、ルカ様だけではなく、そのお母様まで苦しめている。
絶対に許してはいけない。
私は、ますますルカ様をあの女から救い出さなければならないと思った。
だけど、お母様には一つだけお願いされた。
「今のルカは、わたくしのことを悪く思っているの。何を言っても信じてはくれないでしょう。だから、お願い……わたくしがあなたに声をかけたことは、まだルカには話さないでちょうだい」
私はその言葉に頷いた。
そして新たに心に誓った。いつか必ず、私がルカ様を振り向かせてみせる。
あの女からルカ様の心を奪いとるのよ。
(だって……最後にルカ様と結ばれる運命なのは、私なのだから。あの女に、私と彼の仲睦まじい姿をいつか見せつけてやる)
それに、今は内緒にしてとお願いされたけれど、ルカ様のお母様は私の味方なのだもの。きっと上手くいくわ。
私は勝手に確信していた。




