第4話 ケルベロスヘッズ2
いや、アイツ、全然、あっちのスペックのままじゃん。絶対この後、敵として再登場するパターンだ。
なんか同じフォックスレイン陣営で仲間っぽいムーブしてるけど、絶対信用できないやつだこれ。
残ったクラーケンももう説明は終わったと言わんばかりに手元のタブレットと私の脇のモニターとを見比べている。
ああ、検索タイムってか、このアラクネストのチュートリアル、つまり習うより慣れろ時間のようだ。
試しに出てきた検索窓に触れると、
アラクネスト
リプレースメント
イデア
イデアライズ
と入力しなくても自動的に検索候補が現れた。
アラクネストは調べるまでもない。
要はゲーム内ネットだ。
実際に現実のネットとも繋がっていて、いちいちリアルと往復しなくても調べ物ができるようになっている。
似たような機能はフォックスレインの時にもあったので、これは良い。
検索候補のリプレースメントに触れる。
これもなんとなく実況で見て知っている。
要約が一番上に現れて、他の詳細説明なり、関連項目の候補がいくつか出た。
これはクローンが近い概念だろうか。
肉体のスペアというか、新しい肉体というか。
要はアバターが死んだ時の補充される肉体だ。
こちらの世界では主にみっつの種族が文明を築いている。
人間、天使、そして妖精だ。
ウィンドウの表示内容を戻して検索候補のイデアに触れる。
イデアは魂の情報といったところか。
それには経験、知識、性格、性別や肉体、ゲーム的にはレベルやステータス、習得済みのスキルや魔法、つまり八月朔日というキャラクターのすべてが情報として詰まっている。
そしてこの世界では天使の技術によって、イデアをデータのように扱える技術が確立されていた。
イデアをヘイローと呼ばれる光の輪に保存することによって、そのヘイローを新しい肉体に移し替えれば、肉体が損傷しても、死んでも、何度でも蘇ることができる。
そのイデアの乗せ替えがイデアライズといったところか。
今の私はフォックスレインの世界、カドメイアからイデアだけを引っ張り出して、こっちで作った肉体に乗っけたと。
「ん?ねえ、クラーケン、私の元の肉体ってどうなったの?」
「知りたいのですか?」
「まあ、あるんなら、それをこっちに送れなかったのかなって?」
「まず根本的な話をしますが、現状、カドメイアからこちらへと物質を送るのは非常に大きなエネルギーが必要となります。イデアから予想される八月朔日の肉体転送に必要なエネルギーは小型の新世界爆弾1発分くらいは必要ですね」
「え?そんなに?」
「もう新世界爆弾についてまで調べたんですね。現状、相当のエネルギーを確保するのは不可能です。ですので八月朔日の肉体がどのような状態でも、こちらへと持ち込むことは不可能です」
いや、今調べたんではなく、リアルで調べた時に見聞きしただけだ。
新世界爆弾。
天使の技術により生み出された禁忌の爆弾。
この世界では人間は天使に支配されて生活していた。
あの宇宙船とロボだ。
それが武装哲学者の台頭で独立戦争が勃発。最終的に月の裏側の天使の本拠地にまで攻め込んで人間は勝利した。
そして人間による人間の自治が始まったんだけど、今度は人間同士での戦争が勃発。月の裏側から持ち帰った技術が、それも危険すぎて人間相手には決して使われなかった技術による兵器開発が瞬く間に進み、最終的にはその究極たる新世界爆弾が7発も使われ、この星は荒廃したという。
それで改めて人間に対して不干渉となり月に引きこもって本拠地の修復に努めていた天使に、荒廃した世界の修復と、支配ではなく相互扶助による適正な管理を求めて現在のある程度、平和な状態が築かれた。
星を荒廃させた新世界爆弾は単純に土地とそこに生きるあらゆる生物を破壊しただけでなく、世界のゆらぎを発生させ、結果としてこの世界とは切り離された別の次元の世界と相互浸透を起こして、行き交い、あるいは混ざり合った。
……考えるまでもなく、ゲームを始めた時に見た閃光と光輪、アレだ。アレによってこちら側に現れたのが第三の存在である妖精だ。サービス開始当初はこちらとどこかとが混ざり合った存在のことだけを指していた。
今日からは妖精には私やクラーケン、スキュラが、リアル的に言えば他のゲームからヒラエスでコンバートしてきた存在、異世界からの来訪者たる自分たちも含まれると言う訳だ。
クラーケンが言うには私の肉体を送るには核爆級の爆弾に相当するエネルギーが必要であると。
検索結果にはまだ世界には107発の新世界爆弾が各地に眠っていて、この街、ケルベロスヘッズにも12発あるらしい。
……つまり、やろうと思えばやれるのか?ってか、これってもしかしなくても?
「ある程度、調べ終わったようですね。では、モニタリングした現在の八月朔日のステータスを送ります。リプレースメントとの適合率は現状、69.15%前後で揺らいでいます」
クラーケンが言うと、新たなウィンドウが宙に現れる。それは椅子の周りのモニターに表示されている内容と同じだった。
ステータスというのはまんまで、ゲーム的字義通りに私の能力値が私のアバターの外見情報と一緒に表示されている。
「これかあ」
ウィンドウにはかなり豊かな胸のやや身長高め、深めのロイヤルブルーの襟足をロングにしたウルフカットに病衣姿、そして男顔の女性アバター。そこに並ぶのは見慣れないステータスだ。
筋力を表すSTRや知力を表すINTなどではない。
そこにあったのは、
Skeleton7/10
Ogre5/10
Vampire4/10
Gazer7/10
Slime3/10
Daemon3/10
Golem3/10
Mimic6/10
Vixen8/10
の9種類。一見しただけでは何のことか全く分からない。
ただ、自分のフォックスレインでの最終ステータスはだいたい覚えている。そこから類推すると、多分、
Skeleton 敏捷
Ogre 筋力
Vampire 体力
Gazer 視力=感覚?
Slime 生命力
Daemon 魔力
Golem 防御力
Mimic 幸運
Vixen 運命?
だろうか?
単純に名前の置き換えならフレーバーでしかないので、これも何らか意味と効果があるのだろう。
それにしても一番最後だ。
ヴィクセンって牝狐じゃないか。どう考えてもアレ関係のステータスでは?これが一番高いことにリスクしか感じない。
10段階での数字にしては、前世に比べたらいくつかの項目がちょっと低くない?って思わないでもない。もちろん、ゲームを始めたばかりにしては破格には違いないのだが。3ってなんだ。
アラクネストで調べても、「現在、関連する項目はありません」とデフォルメされた蜘蛛がペン持って振り回してるだけだった。しばらくは推理して楽しめ、と。リアル側での検索結果はいくつかのSNSでなんだこれ?って同じような反応してる感想程度しかない。そしてヴィクセンは思った通り、フォックスレイン固有で確定だ。
「そのリプレースメントとの適合率ってのは?」
「まだイデアライズしたばかりですので、心配せずとも直に100%近くに達します」
うーん、会話じゃない。いや、クラーケンはこれがデフォルトだ。とりあえずレベルダウンしているってことだろうか。いきなりフォックスレインのレベルマックス相当にすると、序盤のコンテンツが楽しめない可能性が高いから、意図的に、限定的に下げているのかもしれない。とりあえず人間スタートみたいに雑魚敵狩って地道なレベルアップはしばらくしなくても良さそうな気はする。
ステータスがケルベロスヘッズ仕様になること、それに人間種とも別の仕様になることはヒラエスでのコンバートするに当たっての合意時にも確かに注意表記があった。
それがこれっていうことはもしかしなくても、妖精ってモンスター枠なんじゃなかろうて?そう思ってクラーケンを見て、そして我らがお母様の姿を思う。クラーケンはイカの怪人みたいなものだし、お母様は様々な姿の怪物を吸収したキメラ的なラスボスだ。
……否定できない。
このステータスだけで、自分がキメラになったような気分になった。
もしかしなくても、世界を滅ぼす尖兵側?アレがこっちに来て戦えるようになるのは望むところだけど、新世界爆弾を全部強奪してこいみたいなテロリストルートからの赤い雨は嫌だなあ。
「なんですか?」
「いえ、なんでも」
あっさりとしているけど、これでアバター自体はコンバートが完了したということだろうか。
だとすると後は装備やアイテム、スキルか。スキルはざっと見ただけにした。これは実際に使いながら確認しないと意味がない。




