第4話 ケルベロスヘッズ1
「だからホラー演出やめろ!」
ってか、なんだあれ。
本当に当時のまんまじゃないか。
びっくりした。当時のAIでもNPCと会話してて普通に楽しかったし、なんならNPCの友達みたいな存在も普通にいたけど、こっちが言うことをきちんと理解して返してくるのは当たり前として、データってか、ログを消さずにそのまま残してた?ってくらいに当時話した内容が含まれていた。
あれが絶対運命お母さん、絶許毒ママ、真のラスボスだ。
いや、ケルベロスヘッズのラスボスはまた別なのだろうけど、今のところ、あれが目標にして目的なのは間違いない。
「なんだ、起きて早々クソデカひとりごとか?うるせーなあ。クラーケン、鎮静剤を用意しろ」
「スキュラ姉さん、鎮静剤より私は睡眠剤の方が良いと思います。ずっと眠らせたままの方が良いに決まっています」
見ればそこにはふたりの白衣姿の女がふたり。
って顔に見覚えがある?
リアルで、では勿論ない。
フォックスレインで、だ。
ゲームの違いなのか、開発世代の違いなのか、顔グラの味付けに違いがあれど、この顔はってか、クラーケンとスキュラってことはタコイカ姉妹?
このふたりもまた序盤は味方で共闘するんだけど、後に敵になったキャラクターだった。メインストーリー上で死んでるんだけど、その後、最終決戦ではラストダンジョンの門番として復活していた。ただし、門番バージョンの時には最初から最終形態で会話は一切なかった。
特徴的なのはその耳が羊の角のように巻いた貝になっていて、髪の色がクラーケンが緑色、スキュラが碧色、この姿は序盤の人間擬態ではなく本性表してからの第1形態の姿に近い。
「……まさか、スキュラアルゴとクラーケンアルゴ?」
「あぁ?呼び捨てかあ?お前はそんなに偉かったか?八月朔日。一度勝ったくらいで調子に乗るなよ?」
討滅したのは一度じゃないのに、一度って言うのはつまり最終版の時は自我がなかったのかしら?短気なスキュラは話すにはちょっと苦手なので、あんまり突っ込まないでおこう。
「その一度で死んでなかった?」
「お前なめてんな。オレのことも、お母様のことも。一度殺されたくらいで死ぬかバカ」
「……私は別に呼び捨てでも良いけど、スキュラ姉さんは許しません」
「はいはい、スキュラさんもクラーケンもお久しぶり。ご無沙汰してましたよ」
なんだ、同窓会か?めっちゃ出てくるじゃん。
ってか、なんだその姿は。本来なら専用装備の巻貝鎧を着ていたのに、今は白衣だった。医療従事者というよりは、研究員といった風情だ。さらに現代的なタブレット端末らしき物まで持っていた。
って、タブレット?
改めて見回すと、自分は入院患者みたいな、前合わせのパジャマみたいな感じの格好だった。上半身を起こす形で座っているのは歯医者の椅子に、やたらモニターとケーブルが繋がっていてサイバーパンクな見た目になっているそれだ。
ちょっと私の自室のそれとちょっと似ているけど、ゲーミングに光ったりはしていない。
部屋は白で統一された病室っぽかった。
「どういう状況?ってか、どこ?」
「クラーケン、説明」
「はい、スキュラ姉さん。ここは私たちが確保しているケルベロスヘッズ内のリプレースメント工場です。八月朔日のイデアをカドメイアからトレーシング、用意したリプレースメントにイデアライズを施しました。この処理によってカドメイアで保持していた運命は大きく減衰し……」
「ストップ、実況で……いやまぁ、ある程度知って……なんとなく想像できるけど、急に新しい用語どかどか出してこないで」
不機嫌さだったり、怒りだったり、そういった感情のニュアンスが表情に表れるスキュラと違って、クラーケンの表情は一度も変わらない。淡々とした無表情かつ、最小限の口の動きでの囁きボイスで新用語を並べ立てられると脳が理解を拒む。
「八月朔日のリプレースメントにはアラクネストへの接続デバイスがインストールされています。そちらでの検索を推奨します」
「何でも説明させるな。ガキじゃねえんだから」
「ガキっぽいのはむしろ」
「指」
「は?」
「指を出せ」
スキュラがそう言って出した人差し指に合わせて同じように人差し指を上に向けて出すと、スキュラはそれを宙をなぞるように下へと下ろした。そしてやってみろと言わんばかりに私へとあごをしゃくる。
同じように指を下ろすとそこから四角い小さなスクリーンのような四角、ってかリアルで見慣れたウィンドウが表れる。
「おぉ、魔法?」
「ふっ」
鼻で笑われた。
思わず呟いたけど、いや、そうじゃない、とすぐさま思う。
ケルベロスヘッズは純粋な剣と魔法のファンタジーなどではない。
剣と魔法と銃とSFだ。
ジャンル的にはファンタジーSFメカアクションFPSなのかもしれない。
要は何でもありだ。
つまりこれは魔法ではなくサイバーパンク。
ウィンドウにはArachne'stというどこぞの検索サイトじみたロゴと見慣れた虫眼鏡ロゴの入った検索窓。現代人ならコレを見ただけで誰でもピンとくる。そうだ、実況で見た覚えがあった。
私の反応に何故か得意げな顔をしてスキュラが笑顔を見せる。
別にお前が作った奴じゃ無いだろう。
「まあ、野蛮人の八月朔日じゃあ使いこなすのは難しいかもな。せいぜい頑張れ」
そう言うと、文明人顔したスキュラは扉の方へと歩いていく。閉まっていた扉が自動で開くと足元からタコの足が出現して、手を振るようにゆらゆら揺れると扉が閉じて姿が消えた。




