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フォックスレイン→ケルベロスヘッズ  作者: ぎじえ・いり
ロビン・ザ・デッドマンズハンド

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第15話 死亡フラグのへしおり方5

「たったひとり相手に何してんの!?殺せ殺せ!殺せぇええ‼︎」


 怖い怖い。

 戻り切らないHPに最後のスティムミストを使う。

 これで回復屋さんは閉店だ。


 さすがに詰んだかな?


 あそこで別れずにチグリス達に助けを求めれば良かったか。

 隠れてスタミナを回復しようにも、隠れた先に敵がいる。

 多いよ。

 ストロベリーシェイクが鈍器になった場合、アマチュアナイフとどっちが攻撃力マシ?


 HPは削れ、アイテムストックも削れ、スキルのリキャスト待ちは死ぬほど長く感じる。

 何でも良いから戻ってきてほしい。カンストステータスならまだしも、現状ステータスだとスキルなしはかなり厳しい。


 ってか、ボスに一太刀も浴びせてないのに、どうやってクリアするの?

 無理じゃない?

 諦める気はない。

 ないけど、ちょっと希望が……エルピスでも使ってみる?


 まさしく最後に残った希望状態で残っているけど、それを使ってもリキャストが縮まる訳でも、驟雨のような弾丸が逸れる訳でもない。


 あぁ、せめてスキュラに頼んだアイテム一式があれば。

 八月朔日さん!新しい武器よ!って届けてくれれば良いのに。

 気の利かないタコブネ女め。


 HPがレッドゾーンに迫る。

 それでもコマドリちゃんを視界の隅に捉え続ける。

 Pはダメだ。

 それだけは食らえない。


 その目を決して離せない相手が突如として膝を着いた。

 なんで?

 私は何もしていない。

 狙撃でもされた?


 コマドリちゃんの身体から白い霧がうっすらと立ち上る。

 なんでダメージ?

 武器を手放し、苦しそうに手まで着いた。

 誰かに何かをされた訳じゃなさそうだ。


「なんで!なんでよ!なんで殺せないの⁉︎たったひとりよ!なんでよ!どうして!?あの人はどこ⁉︎時間が……ないのに、なんで……どうして出てきてくれないの?助けてくれたって……違う!私は……あぁ、いや!死ぬのは、あの人?せっかく全部手に入れたのに私は……私は……ナニ?」


 急にアイデンティティクライシス迎えちゃった?

 あぁ、そうか。


 思い出した。

 ロビンと最初に話した時に出ていた奴だ。


 イデアクライシス。

 テセウスの船の審判。


 彼女もまたロビンと同じ症状が出ているのだろう。

 チェンジリングで一度に身体の大部分を入れ替えると、イデアスコアの多寡に関わらず、拒絶反応が出ると。


 そしてこれはそうか。倒すのが目的の戦いじゃない。

 耐久ミッションか。


 コマドリちゃんの様子に動揺したのか、敵の攻撃が止んだ。

 終わった?

 耐え切った?


 苦しそうなコマドリちゃんに近づこうとする者はだれひとりとしていない。

 窺うように、恐れるように、その身を案じる様子はまるでなかった。

 それを虚ろに見ていたコマドリちゃんの顔に不意に笑顔が浮かぶ。


「そうか。結局はそう。そうだ。そうしよう。全部。全部。全部。みんな。全部。みんな。みんな。全部。私のものなんだから」


 手にしていたPジャベリンが消える。

 代わりに現れたのは水の雫を連想させる謎のオブジェ。

 それが不吉なのはジャベリンのような光輪が幾重にも付いていることだ。

 言葉から推測するにそれって。


 マジか。


 空蝉、戻ってきてない。


 畳返、使っちゃった。ってか、残ってても範囲攻撃は無理。


 何か、何か。


 詰んだ?


 だって。


 爆弾でしょ?それ?


 まさか、少女を助ける結果が爆発落ちとは。


 一縷の望みを賭けて装甲車へと走る。

 死亡フラグのへしおり方。それは根性で死なない。そして生き汚なく最後まで足掻くだ。


 オープンセサミ。

 イカロス・モンゴルフィエ・ライト。


 いや。唱えるならコレか。

 

未来に満ちた箱(エルピス)


 祈るようにノブへと手をかける。

 鍵は掛かっていなかった。

 ラッキー。

 最後の希望はまだある。


「全部私が好きにして良い。そうでしょう?ママ?」

クソ(やられた)


 思わず例のセリフが出てしまった。


 装甲車に乗り込んだ瞬間、幾重もの放射光が彼女の手から溢れ出す。

 慌ててドアを閉める。フルブラインドの車なので、始動していないからか外は見えない。

 音が消えた。

 まるで吸い込まれたみたいに静かだ。


 シートベルトはしてね。

 チグリスの助言を忘れず実行。

 そして衝撃。


 口を開けて耳を塞いでうずくまるんだっけ?

 何かの映画で見た対ショック姿勢にどこまで効果があるんだか。

 世界が回る。

 気分は洗濯機の中の洗濯物だ。

 いや、乾燥機か?


 どっちでも良い。

 何かを叫んだ気がする。

 少なくとも放り出されたりしない以上、シェルターとしての役割は果たしてくれている。


 保ってよHP。耐えてよレッドゲージ。

 頼むから中性子だの魔力波だので貫通ダメージとかやめてね。

 いったい何回転したのか。


「あーあー、生きてる?おぉ、生きてる生きてる。すごいぞ私」


 車は見事にひっくり返っていて、天地が左右になっている。

 シートベルトを外して、元々ドアだった部分に立つ。

 今は天井になったドアを開けようとしても、衝撃で歪んだのか開かない。

 え?閉じ込められた?


 後ろに移動して、色々確認すると、後部のハッチは無事で開いた。

 周囲はさっきまでの戦闘が嘘みたいに静まり返っている。

 一発の銃弾も飛んでこない。


 どこも燃えたり煙が出ていたりしていない。

 アレは火薬が炸裂するような爆弾じゃないのだろう。

 思わず新世界爆弾を連想した。

 まさかアレがそうだった?

 いやいやまさか。


 後でスキュラに聞いておこう。

 爆心地を見れば、そこにはひとつのヘイローが浮かんでいた。

 たったひとつの爆弾で、あのハゲよりも耐久力ありそうなボスがリプレースメント全損か。

 浮かぶリプレースメントの周りには何も落ちていない。


 ドロップ品はなし。

 私が倒した訳じゃないしね。

 あの爆弾も後々、どっかで手に入れられるのだろうか。

 儚げに、まるで泣いてるみたいにヘイローが揺れている。


 ママ、か。


 イデアクライシスの危険性を知っていても、チェンジリングを使うくらいには追い込まれて、壊れていたのかもしれない。

 それに恐怖ゆえに従い、そしてロビンに隠された財宝があると信じて従った者たちは、誰も彼もが今はヘイローになっている。

 無数に浮かぶヘイロー。

 その中心でコマドリちゃんは今、何を思うのか。


「え?」


 私の目の前で輪を描いていたヘイローに、突如として放射状の光が降り注ぐ。

 天使の梯子と呼ばれる気象現象だ。

 いや、それよりもより強い光が降り注いでいる。

 前に見た演出と違う。


 肉体が滅ぶとヘイローはエーテルラインに、つまり上空に転送されるのではなかったか?

 少なくともあのPKerはそうだった。

 尚も降り注ぐ光はやがて(オブジェクト)になる。

 胴体のみのマネキン(トルソー)、だろうか。

 羽根の生えたトルソーだ。

 まるでサモトラケのニケのような。


 その胸には門があった。

 二重のアーチのある門、それが開き、中へと誘われるようにヘイローが入る。

 門が閉じると、逆再生するみたいに天へと光が伸びていく。


 トルソーは光に解けていくように、形を失っていき、そのまま空へと消えてしまった。


 ああ。


 賞金が掛けられていなかったのは、昔の話。

 あの様子では、かなり好き勝手やったのだろう。

 そして、天使になった、と。


 周囲のヘイローも消え去り、後には静けさだけが残った。

 これがケルベロスヘッズか。

 親子喧嘩ですら、この規模と。


 コマドリちゃんの最期を思う。

 満足そうな笑い方だった。

 壊し、殺し、奪い、望むままに衝動を満たす。

 まるでどこぞのラスボスだ。


 彼女はしたいことをしたのだろう。

 なら、私が思うことは何もない。

 さて、面倒ごとは片付いた。

 あとはロビンのイデアクライシスか。


 代わりのリプレースメントは目の前で爆発霧散した。

 もう脳みそのキャパシティに空き容量はない。

 ボロボロのリプレースメントを引きずって、あのロビンを置いてきた部屋へと向かった。


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