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フォックスレイン→ケルベロスヘッズ  作者: ぎじえ・いり
ロビン・ザ・デッドマンズハンド

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第16話 ザ・デッドマンズハンド

 あの爆弾で確かに敵は全滅したのか、誰とも行き合わない。

 相変わらずエドガーもどっかに行ったままだ。


 HPは少し戻ってきて、レッドゲージよりは少し上。さすがに足を引きずるような疲れなんてものはリアルの肉体と違ってないけど、それでも気持ち的にか体は重い。


 もう戦闘はないだろう。

 ないよね?


 この後の最悪の展開を想定するなら、真のラスボスとしてロビン戦とか?

 まさかね?まさかだ。


 あとはエピローグを見て、スタッフロールだ。

 どうにもロビンとハグして幸せなキスをして終了とはなりそうにない。

 なにしろロビンのリプレースメントは目の前でコマドリちゃんが爆散させてしまった。


 話が続くんなら、一度、植木鉢の観葉植物でも貰って帰らせて欲しい。

 ロビンに敵を全滅させた事をメッセージで入れると、分かった、とだけ短く返信があった。


 コールすれば繋がる。

 繋がるけど、じゃ、おつかれしたー、で放り出して直帰なんてエンディングはない。


 やっとのことで伽藍堂の空き部屋につくと、タイミングを測ったみたいに地下への隠し通路は開く。監視カメラか何かでもあって、外の様子を確認していたのかもしれない。

 階段を降りて、チェンジリングのある部屋に入る。


「お疲れ様。八月朔日。無事で良かった」

「ありがとう。ロビンも無事……で良かったんだよね?」


 ロビンは備え付けのコンソール端末に軽く腰掛けていた。

 腕が最後に話した時と様子が違う。

 左右ともにもう白い霧なんて出ていなかった。 


 右腕は最後に見た細い腕。その手には一丁の銃が握られている。それは私が渡した銃ではなかった。

 今まで手にしようとしなかった銃を手にしたこともそうだが、問題は左腕だ。

 チェンジリングを使ったのか。


「この腕はパワーの上腕と前腕に、マルコキアスの手を取り付けた腕だ」


 ロビンの左肩から先が人間の腕ではなくなっていた。

 機械の腕、それもデザインでそれと分かる、天使の腕だ。

 ロビンの身体にはまるで合っていない大きな腕だった。

 腕だけでロビンの身長ほどの長さがある。


 今までに見てきた天使のロボット腕と違うのは、前腕から先に外側の装甲がなく、中のシャフトや内部機構が丸見えになっている。

 大きく、一本一本が長い指はどこか獣じみて見えた。


「マルコキアスってのは……ドミニオンの手ってこと?」

「そうだ。解放戦争時に武装哲学者によって倒され、落とされた天使、いわゆる堕天使の残骸(パーツ)だ。こうした残骸は世界中にあるとされていながら、実際にはその多くがヘルラ王やワイルドハントの噂と変わらない。都市伝説だ」


 ロビンの話し方がまるで病人みたいだったそれとは違い、普通に話していた。

 イデアクライシスから解放されたのか。

 それにしては苦しげな、何かに耐えるような顔をしているのは、なぜか。


「たまに市場に出ても、まず本物であることはない。例え残骸であっても、もしも自らの身体とすれば、アークエンジェルやパワーとは比べものにならない力をもたらす。そんなものを売ろうとする人間はいない。手に入れるには自ら探し求めるしかない。嘘か本当かも分からない都市伝説を頼りにな」

「それを探し当てたの?」

「組織が安定しだして、リプレースメントにパワーのパーツを組み込んだ頃だ。まだその頃の私には野心があり、どんなことをしても力を手に入れたいと考えていた。ドミニオンの残骸、それも手に入れられるなら当然手にしたかった。様々な噂を検証しながら、私はその中のひとつが怪しいと考え至った。それが51番目の天使領域、ロストベース=ミルトンだった。常に数えきれない天使が警備し、飛び回る巨大な戦場跡だ。解放戦争で最も激しく戦ったかつての奴等の基地の跡地で、環境汚染が今なお浄化されず、人間が長く留まれば体組織は変異し、癌を引き起こす危険な場所。そこには今なお当時のままにドミニオンの残骸が残っていると」


 51番目と聞くと、エリア51が思い出される。リアルだと宇宙人との関連が噂される、ザ・都市伝説オブ都市伝説だ。

 そういう場所に関連づけて、物語の核心であったり、あるいは強力なアイテムであったりが隠されている、というのもゲームとしては定番なネタだ。


「それで?ロビンはそこに行ったの?あったの?」

「まさか。外部の人間に秘密裏に調査依頼を出し続けていただけで、それっきり忘れていたくらいだ。それが成果があった、と報告が上がってきたのが私の運の尽きだった。ふた月ほど前に、どこぞの腕利がパーティーを組んで潜り込んできて、破壊された残骸を持ち込んできた。激しく損傷したそれはとても使い物になるとは思えなかった。持ってきた方もスクラップに価値がないと考えたからこそ、提出したのだろう。問題はそれが本物のドミニオンの手だったことだ」


 これ、持ってきたのってプレイヤーかな?

 高難易度ダンジョンとしてどこかのエリアに実装されているのかもしれない。


「私は内部の信頼できる技師に修復を指示した。使い物にならない部分はパワーのパーツで代替させた。修復は難航したが、最終的にそれは使い物になると判断できた。私は悩んだ末にここに隠すことにした。私のリプレースメントの予備を隠した保管庫の、さらにその裏側に」


 思わず部屋の隅の保管庫を見た。

 確かにあの時には何も無かったように見えた。

 隠された物を見つけた時に、更にその奥に隠されているとはなかなか思わないのかもしれない。

 実際にそれは誰の目に触れることもなかった、と。


「直し終わった時に自分で付けようとは思わなかったの?」

「こんなものを持っていると知られれば、どこの組織に狙われてもおかしくない。今の組織の規模で、私だけがこんなものを付けても、狙われる的(フラッグ)にしかならない。手ひとつでも強力なイデアスコアなのは確かだが、私にとっては重荷でしかなかった。最終的には外部ではなく、内部から狙われる羽目になったが致命的な問題は他にもあった」


 強くなれても所詮、手ひとつ分。無双できるほどではないと。

 それでもあると知れれば、あのハゲのように欲しがる者は出てくる。

 例え自分の身にそぐわなかったとしても。


「じゃあなんで今更……」

「今だからこそ、だ。人間としての私はもう終わりだ。それはもう変えようがない。なら次だ。これは天使になった私には必要なことだ。言ったろ。もう時間なんだ。結局、私は死神の手を振り払うことは出来なかった。」


 ロビンのリプレースメントの崩壊は止まっていた。

 最初はイデアクライシスを止めるために、なのかと思っていた。

 代わりに別の現象が起こる。


 空なんて見えていないのに、天井から放射状の光が降り注ぐ。

 天使の梯子が降りてきていた。


 例え本来、第6階層(パワー)の腕や脚を持っていようとも、第4階層(ドミニオン)はふたつも上のランクになる。ロビンには過ぎたる物だったのか。


「ロビン……」

「すまなかった。結局、君にすべての後始末を頼んでしまった。今、報酬を振り込もう」


 システム音がして、インフォメーションウィンドウが開く。ゲヘナの入金があった。ロビンとの契約の成功報酬だった5,000,000GHNだ。

 尚も降り注ぐ光は羽根の生えたトルソーに変わる。

 その胸には五重のアーチのある門、それが開く。


 天使のパーツを人間が組み込むにはデメリットがある。身体の構成率が一定を超えたり、自身のイデアスコアからあまりにも乖離しすぎているパーツを組み込むと、天使落下症候群(エンジェルダスト)に掛かり、天使に種族変更になるという。


 外見的には単に腕が変わっただけに見えても、当然、人体と機械がそのまま繋がるはずがない。見えない内部でも機械化がされ、サイバネティクスが施されているのだろう。それらによって構成率か、イデアスコアかのどちらか、あるいはどちらもが閾値を超えてしまっていた。

 そうなると分かってそうすることは、それは自殺と変わらないのではないか?


「結局、私は組織の長にも、そして親にも向いていなかったんだろうな」


 ロビンの手にある銃、それが持ち上げられる。

 私でも知っている銃、ピースメーカーってやつだ。

 それを自らのこめかみへと当てる。


「ありがとう八月朔日。来てくれたのが君で良かった。これが私にとっては君の言う、映画で見るような幸せな結末ってやつだったと思う。天使になることは人間としては死だが、イデアが消え去る訳ではない。情動が消え、ただどこまでも理性的になるだけだ。よく考えたら、それは私がなりたかった人間像だ。これでもう、私は迷うことも、振り返ることもしなくてすむ」


 人の手で握られたそれで行うのは、人としての決別なのか。

 引き金が引かれた。

 私は目を逸らさなかった。


 ロビンのリプレースメントはエーテルへと還る。

 天へと光が伸びていく。


 トルソーは光に解けていくように、形を失っていき、そのまま空へと消えてしまった。


 ロビンは結局何がしたかったのか。

 ドミニオンの腕を得て、イデアスコアを引き上げ、より上位の天使へと至る。


 天使から多額の賞金を掛けられて、周囲の組織だけでなく、自らの組織の内部にすら軋轢を抱え、最後は人であることを捨てさせられた。


 組織を率い、子を育て、自分を守り、周囲を守ろうとして、そして裏切られた。

 ロビンのひどく寂しげな笑顔を思い出す。

 もう少し私が早くゲームを始めてれば、何かが変わったのか?


 そんなのは無意味な妄想だ。私が始めたのはヒラエス実装直後だ。そして私はヒラエスが無ければ、ケルベロスヘッズを始めていない。

 ただそれでも、もう少し力があれば、そう思わずにはいられなかった。


 あそこでコマドリちゃんを倒せるくらいの力があれば、ロビンのリプレースメントを取り戻せた?


 耐久で終われたのは温情措置だったのでは?装備が揃っていれば、より高いステータスだったら、有用なスキルが揃っていれば。


 あぁ。

 私は納得していない。

 納得できない結果だった。


 こうして私の初めての一連のミッションは、終わった。


ユニークシナリオ「ロビン・ザ・デッドマンズハンド」


発生条件:期間中(ロビンがポエットのセーフハウスに入ってから、強制退室させられるまで)に、下記のいずれかを満たし、セーフハウス清掃依頼を発生させた上で、ロビンの依頼を受ける。

 ○キャットウォークで家具を買う。

 ○ハングドマンズの構成員の信頼値を得る。

  もしくは組織そのものからの評価値を得る。


消失条件:上記が発生せず、ポエットがNPCに依頼し、ロビンを強制退室させる。もしくはデッドマンズハンドから依頼を受けたプレイヤーがロビンを見つけ出して殺害する。


クリア条件:下記のいずれかを満たす。

 ○ロビンのイデアクライシスを治療し、ロビンが無事に街を出る。

 ○ロビンのリプレースメントを取り戻し(シナリオボスの無力化必須)、

  ロビンがデッドマンズハンドのリーダーに返り咲く。

 ※返り咲いたロビンの組織への勧誘を受けた場合のみ、追加シナリオが発生する。

 ○ロビンがヴァーチャーとなる。その場合は、条件によって追加シナリオが発生する。


失敗条件:下記のいずれかを満たす。

 ○ロビンを自ら殺害し、賞金を得る。

  もしくはロビンをデッドマンズハンドに売り渡す。

 ○デッドマンズハンドとの戦闘が発生し、

  ロビンがデッドマンズハンドに殺害された場合、

  あるいはなんらかの勢力、プレイヤー、NPCによってロビンが殺害され、

  パワーとなった場合も失敗となる。

 ○デッドマンズハンドからの依頼を受けたプレイヤーがロビンを殺害する。

 ○時間経過により、ロビンのイデアクライシスが進行して

  デッドマンズハンドと戦闘することなく死亡する(その場合はパワーとなる)


分岐条件:デッドマンズハンドのシドを倒し、アウトオブラックを入手した状態でそれをロビンに渡さずにロビンがヴァーチャーとなってイベント終了した場合、追加シナリオが発生する。


 プレイヤーがロビンを一切安全圏から動かさずにリプレースメントをゲヘナガン積みして用意でもクリアできたし、ロビンに言われるまま廃工場に向かわずに、高レベルプレイヤー集めてデッドマンズハンドにカチコミしてもクリアできたという。なお、デッドマンズハンドから依頼を受けたプレイヤーはいたけど、そっちはロビンを見つけ出せず、なおかつ八月朔日が速攻でチャンドラー入りしちゃった間はリアルで飲み会があって、そもそもログインしていなかったという不運。


 ロビンがヴァーチャーとなっても、ロビンからの信頼値が足りない場合、銃を向けられ、入手したアウトオブラックを返して欲しいと要求される。断ると戦闘となり死んでもシナリオはクリア扱い。逆に殺害してもシナリオはクリアとなるけど、追加シナリオは信頼値が足りていた場合とは全く別物に。


※以降はキリの良いところまで進み次第、投稿しますのでよろしかったら作品のブックマークをお願いいたします。しばらくは長いシナリオじゃない予定なので、ちょこちょこ更新でしょうか?よろしくお願いいたします。

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