第15話 死亡フラグのへしおり方3
「何やってるてめえら!撃て!撃て!殺せ!」
なんだ、タイマンも張れないのか、このハゲは。
ごめん、それは無理。
そうくるならさっさと死んで。
畳返発動。
みんな大好き忍者技、畳返しだ。
ただし当然こんなところに畳なんて転がっていない。
ではどうするのか?
斬撃をハゲの足元に放つと、床が綺麗に剥がれた。
それはまさしく畳一枚分。
このスキルはどこで放っても地面が畳一枚分剥がれて垂直に起き上がる。
効果時間は2秒程度だけど、その間は地面の強度に関わらず、射撃系統の攻撃を魔法含めて防いでくれる。
そしてこれはフォックスレインの時もそうだったけど、このスキルの何が強いって、敵の足元に使うと、簡易的な投げ技として使える。最優秀忍者技と言われる所以だ。
ハゲが急にめくれた地面に対応できずに転ぶ。
Pジャベリンに対して使って、まさか迂回とかされたら怖かったので、空蝉使ったけど、タイミングがジャストなら、こっちでも防げたはず。
挙動とタイミングが分かったからリキャスト短いこっちで次は対処しよう。
ジャンプ一発で畳を中ボスごと飛び越える。
銃弾が飛び交う。当たったのかかすったのか、気にするほどでもない微ダメが入っていた。着地すれば目の前には刺青だらけの禿頭。その目を隠したバイザーがこちらを向く。何かを言いたげに口が開く。
緋色の殺意発動。
視界が赤く染まる。名前が変わったスキルは前ほどではないのだが、やはり視界はやや狭くなる。代わりに何もかもが赤い。
殺人鬼気分が味わえるな。
逃さずの猟犬発動。
なんか名前からして、これ多用するの大丈夫?と言いたくなるスキルだ。
Vixenの値を参照して、攻撃力にダメージが加算されるというコレはリキャストが異様に長いため、カボチャ狩りでは試さなかった。
引いた剣に猟犬の顎門が宿る。
振り抜くと獰猛な咆哮が尾を引いた。
起きあがろうとしながらも口を開いたその言葉は聞き取れない。
猟犬の顎門がその禿頭へと喰らいつき、振り切った時には頭にざっくりとダメージエフェクトが残る。頭部への損壊判定はHP全損確定だ。
ヤバ。ってか、こわ。
なんだこの威力。
加算じゃなくて、乗算してない?10倍近く出てたりしない?
カニ並かって防御力の相手を一撃で砕くって。
さすがに頭蓋骨が割れて脳漿が飛び出るようなゴア表現はされないので、そうは見えないけど、これはそういうことだろう。
切り飛ばしはどうなの?
いやいや、切り飛ばされた方はそんなに時間立たずにダメージエフェクトに変わっちゃうしね。
中ボスが敗れたのに動揺してか、銃撃は止んでいる。
即座に転身して、車両の影に飛び込むと、そこからまた飛び出し、手近な雑魚に斬りつける。スキル効果時間内に、片付けたい。ってか、ニトロンポーションをそろそろ変えないと切れる。
何度か繰り返すと、残った雑魚も散り散りに撤退していった。
やっと一息ついて、スティムミストで回復する。
周囲から撃ちまくられながら、それを避けつつ戦って、では今の私のステータスでは無理だ。せめてクラーケンの装備が完成していて、まともな防具だったら話は別だけど、現状で長期戦なんてしたくないから、手札みんな切ってしまった。
その価値あって、とりあえず勝った。
強スキルのゴリ押しじゃん、って誰かに言われたら返す言葉もない。何より自分自身にとって好みのプレイじゃない。まあ、この手の一発イベントじゃあカニ戦みたいな死んでも仕方ないロマンプレイなんてしていられないので、単なる愚痴だ。
その強スキル、逃さずの猟犬がリキャスト長いので、このミッション中は使用不可だろう。
ボス戦あったらキツイな……。長期戦になるような相手なら、空蝉とかは返ってくるだろうけど、多対一戦だったらそもそも長期戦は無理だ。
名前も知らないハゲはなんとかなったけど、これ、適正レベルに足りていない気がする。いや、足りていないのは人数か。どう考えてもパーティー組んでやる奴では?
救済措置が猫1匹はつらい。やっぱり巨大化してもらわないと。
そういやエドガーはどこいったんだろう?
見回しても姿はない。
あるのは中ボスのドロップ品だ。
リプレースメントが消えて残ったのはジャベリンじゃなかった。
あのリボルバーだ。
なんかリボルバーに縁があるな。
どうせならPの方のジャベリンが欲しかったけど、そっちは仕舞われちゃってたからな。エルピス使えば違っただろうか?
仕舞われる前に手札切れば良かった。
せめてAの方でも良いからジャベリンはちょっと欲しかったけど、仕方ない。またの機会だ。
手にしてみると、思ったよりも大きい。
使っていた相手の手の大きさと自分の手の大きさの違いの差か、握れないほどではさすがにないけど、これ、形状だけ真似てて実物よりも大きいんじゃ?
名前はスコティッシュフォールドじゃなかった。
アウトオブラック?
運の尽き?
イデアスコアが何気に3桁あるな……んで、何?
んん?
えっと?
説明が理解を拒むので、これは後で検証含めて一度パイロンにでも持ち込もう。
分かったのは、あのハゲが遊んでいた訳じゃ無かったってことだ。
どうやらこの銃には意思があって、そして銃弾を放たずに、消してしまうことがあるということだ。
結果から見るに、多分、めちゃくちゃ運が悪かったか、めちゃくちゃこの銃に嫌われていたのだろう。
本来の効果は何発か不発になる分、実際に発砲されるとそれが高威力になるという、ナチュラルボーンロシアンルーレット銃ってことだ。
とりあえず使い道ありそうなので、売らずにキープ。ただ、私の腕でこれを活用させる時が来るのかとは思わないこともない。
賞金も入っていた。
中ボスの賞金額は見てなかったけど、ゲヘナが多分、1,000万弱くらいはあったっぽい。雑魚と合わせてめちゃくちゃ増えてる……かなり高いな……あのハゲ、もしかして天使になってるのでは?
ってか、これ、多分、最終的に4,000万くらい行くのかも。ロビンを殺さない選択肢でも、同額くらい稼げるような気がする。
しかしキツイな……視界が元に戻ると、急に集中力切れた。
ホテルに返って寝たい。
カニ戦と違って、そんな長時間戦った訳でもないのに、異様に疲れている。
いや、カニ戦の時点でかなり神経は使っていた。
死んだからといって、それでプレイヤー自身のメンタルもリフレッシュされる訳じゃない。
探索しながらの戦闘というのも神経を使っている。
たまっていた脳疲労が限界になっただけだ。せめてログアウトした時にしっかり糖分とっておくべきだったか。
ストロベリーシェイクのポーションを交換して、ついでにストレージから水を出して飲む。
冷蔵機能がついているのか、まるでキンキンに冷たいそれが気持ち良い。
さて、泣き言こぼしてる場合じゃない。
残った水を頭にかけて、容器をその辺に投げ捨てた。
えーと、なんだっけ?
見取り図をとりあえず出す。
あぁ、そう。
裏だ。裏口目指してたんだっけ。
今が……この辺か。
逃げ出した連中が裏に行ったとするなら、そっちから増援が来る可能性が高いか……ロビンがいる辺りがどうなってるかも気になるから、戻りつつ正面行った方がまだ数少ないかな。
挟み撃ち?
いや、それは最初からだ。
基本は数が少なそうな方を叩くだから、これで良いはず。
鈍った頭は冷えた水くらいでは簡単には戻らない。
はー、どっこいしょどっこいしょ。
どうでも良いことを考えながら正面へと向かった。
逃げた雑魚敵と一緒に一度撤退したのか、しばらく進んでも敵の姿はなかった。
落ちたメンタルを立て直す時間があるのはありがたい。
せめてもうちょっとテンション上がる武器ドロップでもあれば良かったのに。
そっか、思っていた以上にPの方のジャベリンに期待していたのかもしれない。
早い、強い、避けられない。
あんなのあったらカニ戦だって相当楽だ。
一対一で使うならトドメくらいでだけど、多対一ならあれくらいのハンデは欲しい。
カニの手をダビデするのと、Aでも良いからジャベリンだと、どっちの方が威力が高いのだろうか?
うーん、全然、集中していないな。
そう思いながらもロビンの隠れている辺りまで来ても、敵の姿はない。
下手に様子見に行って、メンタル落ちた自分が尾けられていたらシャレにならないな。
そう思ってロビンにいる場所には顔を出さない。あのハゲが言っていたことは気になるけど、確かめるなら敵を始末してからだ。
こんな場面で「騙していたのか?」なんてやり出すのは、ストーリー的に大抵ロクな結果にならないフラグだ。
正面に向かいますか。
ひとりでうろうろしていると、どうでも良いことばっかり考えてしまうので、エドガーでもいてくれると助かるんだけど、相変わらず姿を見せなかった。
もしかして、死んだんじゃないの?
うーん、もうちょっとあの辺りきちんと確認しておいた方が良かったのかしら?
エドガーってリプレースメントあるのかしら?
隠れられるところではきっちり姿を隠しながら、集中力ゼロで、それでもセオリーは守りつつ進んでいく。
うーん、今、ボス戦がいきなり始まったら、無理ゲーだなぁ。
待ち伏せされそうな通路の角に向かって赤錆を投げる。
カツーン、と硬い音を立ててナイフは壊れずに転がる。
ただの確認で投げたそれを拾い上げて仕舞う。
案の定、敵はいない。
ってか、敵はどこに行った?
なんで出てこない?
最悪の想定は私が中ボス戦をしている間に、敵は既に目的を達していたパターンだ。もうロビンは敵の手に落ちている?
なくはない。
やっぱり確認しておいた方が良かった?
今から戻るにしても、もう正面入り口はすぐそこだ。
そこはひどい有様だった。
爆発音もしていたし、まあ、そうだろうなぁ、と思っていた通りの惨状だった。
どんだけ爆薬を積んでいたのか、それとも敵が積んだのか、入り口は大破していて口を開けたままになっていた。朝まではまだまだ時間があるので本来は暗いのだけど、スキルの効果で昼間と変わらない視界がある。
長い夜だなぁ。思わずあくびをしそうになった。
集中力は戻っていない。
それを示すようにリプレースメントの適合率は80%台にまで下がっていた。
下がることあるの?もしかして長時間遊んでると、ログアウト施策で強制的に下がっていくとか?
見回してもあるのは瓦礫ばかりで、受付らしき物があったのだろうなぁ、という場所以外は何も判別できない。
外には3台の車が並んで塞いでいた。
チグリスが乗っていたような一般的な車両に改造して装甲をつけたものじゃなく、本物の装甲車だった。
周囲には散々見た雑魚敵に、ちっこい中ボスみたいな兵士もいる。
要はロボの手なり足なりがついている敵だ。サイズは普通の人間サイズだけど。
Pの方のジャベリンを持っている敵はいない。
しかしAの方を持っている敵はちらほらいる。
無理ゲーだなぁ。
雑魚敵オンリーならなんとかなるかな?と思ったけど、結構硬そうなのが2、3人にひとりの割合で混ざっているのがかなり嫌だ。
嫌がらせに適当な敵にダビデだけでもしてから戻るか。




